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zoom RSS 【ここからはじまる倫理 アンソニー・ウエストン著  野矢茂樹・高村夏輝・法野谷俊哉訳 春秋社】

<<   作成日時 : 2005/02/28 19:15   >>

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倫理を実生活にかみあわせて倫理を機能させるための本(p1-2)だそうです。倫理的・道徳的問題に対して解決を与えるための考え方について書かれています。

誰かが自分の価値観とは異なることをしようとしていても、「他人のことには口を出さない」で済ましてしまうことが多いと思います。この本の例では、中絶が挙げられています。でも、その態度では良く無い、社会全体として解決しなくてはいけないのだということが、はじめの方で述べられます。理由は、「中絶をする人もいれば中絶しない人もいるという場合は、社会全体として中絶を行っていることになる。中絶を傍観させらている人は、傍観していることによってその社会を肯定的に受け入れなければならない。このような問題の場合、他人を巻き込まずにたんに自分のしたいようにするとはできない」からです(p21、一部省略)。倫理とは、社会全体が関わってくる問題で、ともに生きていくための道徳規範を確立する手引きを与えるもの(p22)だそうです。

道徳的問題については権威や他人には頼れず自分で考えなくてはならないことや、問題を創造的に解決する方法が第2章と第3章で述べられます。第2章では、ベトナム戦争での戦争犯罪が例にあげられ、命令されてもそれに従うかどうか考えて決定する責任が当人にあることが説明されます。このようなことは企業の不正についての内部告発などと通じる問題ですね。第3章は発想法や問題解決法といった趣で、問題解決のために辞書からでたらめな言葉を取り出して連想していくといった方法などが紹介されています。発想法の道徳的問題への応用は新鮮でした。

一番印象に残ったのは、「第4章二極化してはいけない」です。「道徳の問題ではほぼすべての立場に一理ある」(p73)と述べられています。だからこそ道徳・倫理の問題は解決が難しいし、自分の立場の正しさゆえに相手の立場を理解できず、妥協しにくいのは良くわかります。でも、「異なった意見でも同時に実現できる場合があるので、お互いの意見を詳しく検討し、お互いが同意できる解決を探す」(p86、一部省略)ことができるということが、自殺幇助や環境問題が例にあげられて解説されています。また、スローガンを作って問題を二極化・単純化することの弊害も述べられています。XX派 vs YY派とか単純化して考えたくなりますが、「現実はもっと複雑でもっと陰影に富んだものだ。そしてたぶん、もっとずっと希望をもってよいものではないだろうか」(p73)と書かれています。現実をそのまま認識しつつ、楽天的なこの態度は身につけたいと思います。

本論最後の「第5章想像力をともなった倫理」では、想像力を開いておくことが「根本的」(p96)と述べられています。想像力を開いておく方法として、他人も人であると腹の底から理解する、レッテルを貼ってはいけない、相手の意見に耳を傾ける、相手の中に可能性を見出す、といった方法が述べられます。想像力を開いた成果として奴隷制が廃止されたことが例にあげられます。その歴史をふまえ、動物や環境に対する倫理が今後変化するかもしれないことも述べられます。もしかしたら100年後には、自分が牛肉を食べていることが野蛮で信じられないことになっているかもしれません。

倫理に限らず、いろいろな問題を考える際に役立つ良い本だと思います。

難しい言葉では書かれていませんが、内容を実践するのは少し難しいのではないでしょうか。これがなかなかできないから、社会における問題が完全に解決することは少ないのでしょう。でも、誠実にきちんと生きていくには、この本に書かれていることが大切なのはわかります。心がけたいと思います。

ちなみにスローガンで思い出したのは”悪の枢軸”でした。同じアメリカ人でもやることは全然違うと思いましたが、考えてみれば”アメリカ人”もレッテルですね。なるほど考えることは難しいです。

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