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zoom RSS 【科学哲学の冒険 サイエンスの目的と方法をさぐる  戸田山和久著 NHKブックス】

<<   作成日時 : 2005/10/20 08:17   >>

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この本は科学哲学の入門書です。科学哲学を取り扱った本としては、2005年7月21日のブログで【疑似科学と科学の哲学】を取り上げました。【疑似科学と科学の哲学】は、疑似科学と科学の線引き問題を通しての科学哲学への入門書という位置づけでした。今回とりあげる【科学哲学の冒険】は、科学的実在主義、つまり、「科学と独立した世界の存在と秩序をみとめ(p138)」、「世界のありさまを知ることができる(p139)」という立場からの解説です。対話形式で書かれており、想定している読者としては、「ちょっと背伸びした高校生、そして大学1、2年生(p11)」です。

科学における帰納についての問題や、科学における説明とは何か、実在論・反実在論・社会構成主義、科学理論についての意味論的捉え方、などにつき解説されています。【疑似科学と科学の哲学】と比較すると、ページ数の違いや書き方のスタイルの違いによると思うのですが、解説はあっさりめ。しかし、入門者にとって煩雑な議論が無いことが、却って入門書としてはいいと思います。また、重要な点がまとめとして書かれているのも、入門書としてはいいですね。まとめだけを読んで復習できます。

”はじめに”で表明していますが、著者は科学的実在主義の立場です。科学的実在主義・実在論とは、「人間の認識活動とは独立に世界の存在と秩序をみとめ(独立性テーゼ)(p148)」「人間が科学によってその秩序について知りうることをみとめる(知識テーゼ)(p148)」の立場です。普通に生活しているとこの立場ですよね。これに対する立場は2つあり、1つは独立性テーゼを認めない社会構成主義、つまり世界の秩序は科学者集団の社会的活動によって世界の側に押し付けられたものだと考える(p148)立場です。もう一つは、独立性テーゼは認めるが、知識テーゼを観察不可能な対象についてだけ拒否する(p160)反実在論です。それら実在論に対する考えに対し、社会構成主義には「科学的事実はすべて社会構成物だということこそが確かめられなくてはならない(p148)」と批判し、反実在論に対しては、観察不能なものについての知識を拒否する点については「観察可能・不可能が(中略)あいまいな概念であるとすると、科学の命題を、真偽の確定できるものと確定できないものにきっぱりと二つに分けることができなくなる(p179-p180)」と批判し、反実在論者が根拠としている、観察データから理論が一つに定められないという決定不全性(過小決定)については、「歴史の中でほとんど無かった(p189)」と批判しています。でも、今まで無かったからこれからも無いと堂々と主張するのもどうかと思いますが

また、反実在論と実在論の間には、科学の目的に対する考えの違いもあります。反実在論(ここでは構成的経験主義)では、科学の目的は「(反実在論では観察不可能な対象は知りえないが)観察不可能な対象を含む理論をうまく作って、観察できる真理をぜんぶ説明すること(p158)」なのに対して、実在論は「観察不可能なところまで含めて世界がどうなってるかを知ること(p158)」となります。実在論の科学理論が真理を知るという主張に対しては、反実在論からの批判として、今までに成功したが正しくないとされた科学理論はたくさんあるので現在成功している科学理論も間違っていると考える方が合理的、とする悲観的帰納法による批判が紹介されています(p169-170)。これは説得力ありますね

実在論の難点として、実際の世界についての真理は科学理論が教えてくれる以外に知らない状態で、科学理論が実際の世界に近づいていることを正当化することが難しいということがあります。これができないと、実在論が”科学は世界の真理を明かす”と主張する根拠は無くなります。「このメタ正当化があまりにも難しい(p196)」から、観念論や反実在論が出てきたとのことです。

著者は科学的実在論を擁護します。しかし、ゴリゴリの実在論ではあまりにもメタ正当化が難しいということもあり、若干立場を弱めます。まず、科学的対象に対しては対象実在論(【疑似科学と科学の哲学】では介入実在論)の立場を取ります。反実在論との違いは、観察不可能な対象の実在を知りうるという点、反実在論と共通しているが強い実在論と違う点はニュートンの法則等の基本法則が真であることを知りえないとする点だそうです(p206表)。この立場は納得しやすいですよね。悲観的帰納法にも、間違ってたのは結局操作できない対象であったと反論できるし。

著者は対象実在論ではすこし「控えめすぎる(p213)」と考えているようです。反実在論と共通して基本法則については真であることを知りえないとする点が不満のようです。量子力学が発展し、それ以前よりも「電子の本当の姿」に近づいたのではないだろか(p213)という疑問が表明され、確かにそれには同感します。そこで、何らかの意味で本当の姿に近づいたことを主張できるように、対象実在論で知りえないとした基本法則についての考え方を検討していきます。基本法則を含む科学理論を「モデルと同一視する(p229)」科学理論の意味論的捉え方が紹介されます。この意味論的捉え方により、科学の目的を”真理を知る”ということから「実在システムに重要な点でよく似たモデルを作ること(p254)」と変更した新たな立場を提案することで、悲観的帰納法に答えようとします。この立場では、間違っているとされた理論(モデル)と実在システムにも似ている点があったため「いい線いっていたモデル(p250)」ということで理論全体が間違っていたとみなさず、悲観的帰納法による”今までの理論が間違い”という条件を満たさないと主張することになるのでしょう。この立場は”世界の真理を明かす”という目標からは撤退した印象ですが、これでも「十分に実在論的(p252)」という著者は書いています。モデル作成が科学の目的というのは異論がありませんが、これが実在論を擁護できるかどうか。さて、どうでしょうか。

私には反実在論である経験的構成主義が科学の目的とする経験的に十全な理論=モデルの作成と、実在システムに似たモデルの作成の違いが良く分かりません。実在システムについての知識は科学理論=モデルによってしか得られないのだから、実在システムと科学理論=モデルが似ていると判断できないと思うのですが。実際に理論=モデルの良し悪しを決めるのは実験=経験で、実際の科学理論決定の手順は、実在システムに似たシステムを選ぶというよりも経験的に十全なモデルを選んでいると言った方がいいように思います。また、【疑似科学と科学の哲学】のp141に反実在論の(正確に言えば構成的経験主義)ファン=フラーセンも科学理論をモデルととらえるとの記述がありますから、理論をモデルと捉える考え方自体は実在論とは関係ないようです。実際、この本でも「もともとは実在論論争とはあまり関係ない(p237)」と書かれています。著者が表明した理論の意味論的捉え方は実在論の擁護に役立っているという考えは、もう少し詳しく説明していただかないと同意しにくいように思います。

個人的には対象実在論(介入実在論)で我慢するしかないかなというのが感想です。

全体を通して分かりやすい解説で、入門書としてお勧めです。実在論の擁護の難しさの確認としても良いでしょう。

なお、同じ著者の【論文の教室 NHKブックス】もお勧め。

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