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zoom RSS 富山・射水市民病院での呼吸器外し  一律な方針はいかがなものか

<<   作成日時 : 2006/04/24 20:34   >>

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富山・射水市民病院での呼吸器はずしの件の捜査方針が報道されました。

朝日新聞からですが、
呼吸器外し、発覚から1カ月 同意の有無、焦点に捜査
2006年04月23日11時24分
http://www.asahi.com/national/update/0422/TKY200604220258.html

 富山県射水市の射水市民病院で末期がんの患者ら7人が人工呼吸器をはずされ死亡した問題で、富山県警は遺族と病院の医師ら関係者から一通りの事情聴取を終えた。今後は殺人容疑を視野に、専門家の意見を聞きながら、立件の可否を検討する。25日で問題発覚から1カ月が経過する。

 県警内では捜査方針について様々な考えがあるが、「呼吸器をはずしたことによって患者の死期が早まったのなら、殺人容疑で送検し、検察庁に判断をゆだねるべきだ」との意見が大勢だ。

 家族同意の有無が注目されているが「同意の有無にかかわらず、捜査としては刑法の殺人罪を機械的に当てはめるしかないのではないか」との考え方だ。このためカルテの分析などを専門家に依頼、呼吸器外しと死亡との因果関係に重点を置いて捜査を進めている。

(中略)県警内には「家族の同意を得ていることがはっきりすれば、立件は難しいのではないか」との意見も根強い

(以下略)

◇外科部長「家族のこと考えて」

 病院が県警に届け出たのは7件。昨年10月12日、70歳代男性患者の人工呼吸器を外すよう外科部長から指示された内科病棟の看護師が、不審に思って副院長に報告。麻野井英次院長はすぐに院内調査委員会をつくって2日間でカルテを調べ、00〜05年にこの7件を発見した。

 同16日に県警に届け、カルテなどの書類も任意で提出。その後は「真相解明は警察に委ねる」として医師や看護師などへの独自の調査や聴取はせず、遺族にも接触していない。外科部長に対しても発覚直後に計4時間ほどの聞き取りをした後は警察に任せっきりだ。
(以下略)


全ての患者さんの状況がわからないので、コメントは慎重にしたいと思うのですが、癌患者の末期で横浜地裁で出された条件を満たしていれば罪にはならないのではないか、というのが個人として思うところです。(癌の末期患者に呼吸器をつけたというのが気になるのですが。)

病院のこの一件に対する姿勢が気になりました。病院としてはこの件の判断は司法に任せますという姿勢なのでしょうが、治療行為の中止の条件(これについては前に書きました。)に触れるかくらいは調査して判断するべきではないかと思いました。そのようなことも出来ない医師が参加して倫理委員会を作っても、なんの役に立つのか分かりません。

話は変わりますが、中国新聞で良い記事を見つけました。普段、チェックしない新聞のサイトなので既に古い情報なのですが、癌治療の現場からの意見がきちんと述べられていると思いました。ここを読んでいただければもう十分、という感じもします。web上のものはいつ消えるかわからないので、医師の言葉を中心に引用します。これらの意見には癌末期限定ですが全く同感です

死の認識、重い問い 呼吸器外し '06/4/5
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Tn200604050007.html

 ▽医療現場 広がる波紋

 富山県射水市の病院で、末期患者七人が人工呼吸器を外されて死亡した問題が、波紋を広げている。延命治療中止の指針作りや法的な整備を求める声も強い。だが、外的な基準さえあれば、すべて解決するわけでもあるまい。医療者と患者・家族のコミュニケーションに加え、死に対する私たちの認識が問われているのではないか。(編集委員・山内雅弥)

 今回、富山県で起きたケースでは、人工呼吸器を外したことが、本人・家族の同意の有無も含めて問題とされている。

 これに対し、生命倫理に詳しい谷田憲俊・山口大医学部教授(57)は「呼吸器を着けることと外すことは生命倫理・医療倫理的には同じ。外すことだけがなぜ問題なのか分からない」と、病院側やマスコミの対応に首をかしげる。(中略)

 話し合い必要

 「本人の尊厳を守るために、人工呼吸器の装着を避けるよう、話し合いに努めている」と県立広島病院(広島市南区)の本家好文・緩和ケア科部長(57)。患者に無用な苦痛を与えないことが、緩和ケアの基本だからだ。

 とはいえ、栄養や水分補給のための輸液をいつまで続けるかという判断に悩むことも多い。(中略)

 「息子が来るまで、呼吸器を着けても生きたい」と願う患者がいれば、「高カロリー輸液を中止してほしい」と自ら申し出た患者もいる。延命治療の是非を一律に論じることの難しさを肌で感じてきた本家部長の目には「拙速な基準化の動きは、現場の苦悩を知らない議論」と映る。

 起立して一礼

 長年、臨床の場で死を見つめてきた鳥取市の内科医徳永進さん(57)も「がん末期の患者に呼吸器を着けていいかどうかが問題」としながら、「家族が慌てているときなど呼吸器を着けざるを得ない場面がある」と明かす。

 その場合、徳永さんならどうするか―。呼吸器を着けても、死がそこにある状況は変わらない。二日目に他の医師、看護師、家族に集まってもらい、屈託なく意見を出し合う。さまざまな事情もある。「終わろうか」となったら、呼吸器をゆっくり落とす。様子を見ながら「無理だね」と皆が確認。「抜かしていただいていいでしょうか」と、主治医が切り出す。

 さらに一日か半日おいてもう一度、皆に確認したうえで、主治医が「いいですよね。では私が抜きますから」と自ら抜かしていただく。その時は皆が起立し、その患者の努力に敬意を表して一礼をともにする。そのようにして、死が「腑(ふ)に落ちる」ことになるというのだ。

 徳永さんは「市民の側に、死がそこにあることを了解する力がない」ことが、今回の問題の根っこにあると感じている。「その点はジャーナリズムも同じ」と手厳しい。

(以下略)


谷田憲俊・山口大医学部教授もおっしゃっていますが、今回の件が「呼吸器を外したことで死期を早めた」という理由で殺人罪になるのなら、「呼吸器をつけない」ことは死期を延ばせたのにその行為を行わなず死期を早めたという理由で罪になると思います。どちらも死期を早めるというわけです。

このことを素直に考えるなら、呼吸器を外すことを問題にするなら呼吸器をつけないことも問題にしなくてはならないでしょう。でも呼吸器をつけないことは問題とはなっていません。この点については、私の不勉強かもしれませんが、納得のいく説明は聞いたことがありません。しかも、中国新聞の記事や前に書いた記事にあるように、人工呼吸器の装着を避けるようにするのは緩和ケアでは普通に行われていることです。しかし緩和ケアに携わる医師の行為が警察に届けられたということは聞いたことがありません。

ということで、繰り返しになりますが、癌患者の末期で横浜地裁で出された条件を満たしていれば罪にはならないのではないか、と考えています。

話を少し変えます。医療行為には患者さんの苦痛を伴うものがあります。手術はその代表例ですが、医療行為による苦痛よりも利益が上回るときに、その医療行為は正当化できるのだと考えています。例えば、治療しなければ半数しか1年は生きられない病を、手術・その他楽ではない治療を受けることで、治すあるいは半数が2年は生きられるようにするのは意味があることだと考えています。手術をうけても半数しか1年生きられないままであったら、手術に意味があるとは誰も考えないでしょう。そんな場合は、手術による苦痛が利益に見合わないと誰もが考えると思います。末期癌での人工呼吸器はどうでしょうか。大多数の緩和ケア医は無いと答えるのではないでしょうか。そして、モモくん、ありがと。を読んだ方も人工呼吸器は不要だと思われるのではないでしょうか。

呼吸器を外すことに異論がでた射水市民病院では、「呼吸器はどんなことがあっても外しません」ということになるのでしょう。それが患者さんの苦痛と利益を考慮した結果であるならば何も問題はありませんが、そうではないでしょう。病院が司法判断ばかりを気にして、患者に向き合っていない感じがします。そこが気にいらないのです。苦痛と利益を比べることなく、一律に呼吸器は外さないと判断する医療は、患者さんのための医療なのでしょうか。(尚、息子に会うまで呼吸器をつけるというのは苦痛に見合う十分な利益だと思います。)

なんらかの指針や法制定が必要かどうか、という点については本家好文・緩和ケア科部長と同意見で、患者一人一人の状況を考える必要のある現場では指針も法も役に立つ可能性は低いと考えています。患者一人一人の死生観や家族状況が違うからこそ、患者に向き合って考える必要があるのに、法律や指針に頼るのは医師のみならず看護師も含めた医療チームの能力不足のように思えるのです。(そういう点では、最初に紹介した朝日新聞の記事のように内部調査を早々と切り上げ警察に届けた射水市民病院の院長だけではなく、副院長に届けた内科病棟看護チームも同様の問題を抱えていると思われます。)

一律な判断や指針は、「患者中心の医療」「インフォームド・コンセント」の精神に反する気がするのです。そちらの方が倫理的に問題ではありませんか?

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