三余亭

アクセスカウンタ

zoom RSS 「息子の腎臓を2000万円で売った」といううわさが立った

<<   作成日時 : 2006/05/01 20:38   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 6 / コメント 2

移植臓器の売買について、いくらか書きました。臓器提供に金銭が絡むことは問題があるという立場は変わりません(とはいっても、そちらの方が倫理的・社会的なコストが低いとなったら検討の余地はあるとは思いますが、それはかなり難しいと直感的に考えている段階です)。移植医療には賛成の立場ですから、その点ではあんなこと、こんなこと。どんなこと?さんとは異なる立場ですが、臓器売買については同じように理解している、と理解しております。迷惑でしょうか?

いろいろな方の御意見を読ませていただきびっくりしたのは、臓器提供に金銭が絡むことに私が覚えた心理的抵抗をあっさりと乗り越えられていることでした。私は日本の法律では臓器の売買は人身売買になることを知っておりますし、和田移植の経験から臓器提供に疑いがもたれるようなことはあってはならないと考えています。臓器提供に金銭が絡めば、人身売買となりますから、そんな疑いがもたれることに対してかなり心理的抵抗があります。

さて、以前の読売新聞の記事で、臓器を売ったと噂されてしまった方の心境が少し書かれていました。
「重い決断」進む臓器移植  
http://chubu.yomiuri.co.jp/tokushu/saizensen/saizensen051125_1.htm
家族が中傷受ける現状も 正しい理解と心のケアを
(略)
 主婦は数年前、19歳の息子を交通事故で亡くした。生前から臓器提供の意思を表明しており、腎臓と角膜が4人に移植された。ところがその後、「息子の腎臓を2000万円で売った」といううわさが立った。「どこに子供の体を売る親がいるのか」。悲しみとも怒りともつかない思いにとらわれた。

 中日本支部で移植コーディネーターを務める朝居朋子さん(39)は「心ないうわさで傷つく提供者の家族のことはよく聞きます」と話す。4人いるコーディネーターの多くがやはり、こうした悩みを打ち明けられたことがある。臓器移植への無理解から提供者の家族が中傷を受ける現状がある。
(以下略)


これを読みますと、臓器を売るということに対して日本社会は抵抗感があるのだと思います。(臓器提供に対する抵抗感とは思いませんが、あんなこと、こんなこと。どんなこと?さんは、そのように読まれるかもしれません。)息子の臓器を売るかという母の怒りは、親族の臓器を売ることに対する肉親の抵抗の率直な表明と思います。息子の臓器提供で金儲けしたという心無い噂も、周囲の臓器移植で金銭授受があるという誤解に加えて臓器を売る人間に対する嫌悪感みたいなものも混じってのことではないでしょうか。

社会に臓器を売って金儲けをした人間に対する嫌悪感がある場合、臓器提供に金銭を支払うことは、例えそれが臓器を提供した人間の動機が善意のものであっても、提供者が偏見から逃れられなくなる可能性があると思います。偏見ですめばいいですが、生活上の困難さが増しはしないでしょうか。貧困層の固定化、就職・結婚の差別等々。(水俣病公式確認より50年で、そんなことも考えてしまいました。)

日本社会は臓器を売って金儲けすることに偏見を持たないのでしょうか、そうではないのでしょうか?偏見がなければ臓器提供は増えて、問題も起きないでしょう。しかし、偏見があれば臓器提供は微増、しかも社会的な問題が増えるだけのように思えます。

この記事を読みますと、私は、現在の日本で臓器提供に金銭報酬を与えることは、提供者を増やすことには繋がらないのではないかという気がしてきます。いかがでしょうか。

今回の話に入れると複雑になるので割愛しようとしましたが、備忘録的な意味で以下の記事の紹介を。Web東奥で、生体からの臓器移植が増えていることについてペンシルベニア大のアーサー・カプラン教授が困惑されていました。
http://www.toonippo.co.jp/tokushuu/danmen/danmen2005/0518.html
「最大の問題は、裏で金銭のやりとりがないのかを確かめる手段がないこと」と指摘するのは、ペンシルベニア大のアーサー・カプラン教授(生命倫理)。ドナーに障害が出た場合の保護策もなく「この形態の移植は今後増加するが、もしドナーに死者が出れば関心は急速に縮むだろう」と予想している。

裏で金銭のやりとりがないのかを確かめる手段がないこと、というのはあんなこと、こんなこと。どんなこと?さん以外にも問題に思われている方がいらっしゃるようです。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(6件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
通りすがりさんへのコメント-臓器移植について
先の記事「臓器移植について」に通りすがりさんからコメントを戴きました。 だからこそ臓器移植を認めて、一定のルールの下でコントロールすることが大切だと思うのです。技術が存在し、それを求める人がいる限り、いくら禁止しても臓器移植がなくなることはないでしょう。.... ...続きを見る
あんなこと、こんなこと。どんなこと?
2006/05/02 11:48
「再開された臓器売買をめぐる論争」という論文。
臓器売買について前に、いろいろ、しつこく、書きました。だいたい私の意見は書き尽くしたのですが、臓器売買に関して何か詳しく書かれているものはないかと探していたら、『医療・生命と倫理・社会』 (オンライン版)Vol.4 No.1/2 2005年3月20日刊行http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/eth/OJ4/に再開された臓器売買をめぐる論争http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/eth/OJ4/kurose.pdfという論文がありました。... ...続きを見る
三余亭
2006/05/02 13:16
さらに臓器移植について
今回、始めて、「脳死」者を創らず、救命しなさい!  『脳死』・臓器移植は死と、人権侵害をもたらしています!」というタイトルを掲げた「脳死」・臓器移植に反対する関西市民の会」があることを知りました。 ざっと眺めただけですが、ここには脳死者の症例も列記され.... ...続きを見る
あんなこと、こんなこと。どんなこと?
2006/05/02 15:15
提供臓器の優先順位
非日乗的日乗inowe社長blogさんよりTB頂きました。大変考えさせられるフィクションでした。細かい話になって申し訳ないし、このことを指摘するのは非日乗的日乗inowe社長blogさんが提起された問題を考えるうえでの本筋ではないのだと思うのですが、誤解があってはいけないと思うので、小さな声で指摘だけを。 ...続きを見る
三余亭
2006/05/02 20:21
【生命の尊厳とはなにか アーサー・カプラン著 久保儀明・楢崎人訳 青土社】
halさんより、生命への先端科学的な介入をすべて忌避する極端な方と教えていただいたアーサー・カプランの著書(アーサー・カプランのホームページはhttp://www.bioethics.upenn.edu/people/?last=Caplan&first=Arthur)。原著は1998年に出版されており、日本語訳は1999年11月に第1刷が出版されています。かなり早い時期に翻訳されています。 ...続きを見る
三余亭
2006/05/11 17:02
臓器売買再考
前に臓器売買についていろいろと書きました。その中でhalさんより、素朴な反感はさておき、移植があってもよいと思うのであれば、そこに金銭授受が介在する(もしくは介在させる)メリットとデメリットを考えてみる必要もあるかと思います。とコメントを頂きました。だいぶ時間がたちましたが、考えてみました。 ...続きを見る
三余亭
2006/05/31 00:01

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
引用されている19歳の息子さんを亡くした主婦の方の話は、たとえば生命保険や火災保険で大金を手にした方々が裏で言われることに近いような気がします。あるいは、中東に派遣されて(仮に)戦死した自衛隊員の家族が大金をもらって陰口を叩かれるのと似ているのではないかと思います。「誰が子供の命をお金に換えたいと思うのか」と憤るのが当たり前ですが、だからといって「無償」という結論は出ないと思います。素朴な反感はさておき、移植があってもよいと思うのであれば、そこに金銭授受が介在する(もしくは介在させる)メリットとデメリットを考えてみる必要もあるかと思います。もちろん、偏見をなくす努力も。

それと、余談ですが、アーサーカプランという倫理学者は、生命への先端科学的な介入をすべて忌避する極端な方だと聞いています。
hal
2006/05/02 22:35
halさん、コメントありがとうございます。
素朴な反感はさておき、この記事のTBにもある「再開された臓器売買をめぐる論争」で紹介されている臓器売買を認めるべきとの議論を読みますと、ある点では説得力があることを否めないと思いました。
だからといってすぐに臓器売買賛成とはいかないのですが、おっしゃられるようにメリット・デメリットを検討する必要はあると思いました。(比較試験が出来れば早いのですけれども・・。)
アーサー・カプランですが、「生命の尊厳とはなにか」という本の翻訳が手元にありますので、その観点から読み直してみたいと思います。
三余亭
2006/05/03 09:23

コメントする help

ニックネーム
本 文
「息子の腎臓を2000万円で売った」といううわさが立った 三余亭/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる