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zoom RSS 【真実を伝える コミュニケーション技術と精神的援助の指針 ロバート・バックマン著 診断と治療社】

<<   作成日時 : 2006/06/08 00:19   >>

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昔は癌であることを告知せずに治療することもありましたが、最近は癌だと告知しないことの方が珍しいと思います。ですが、癌の告知は医療従事者にとっても難しい問題で、告知を受ける側の患者さんに十分な配慮が必要です。この本では、癌の告知のような「悪い知らせ」を如何に伝えるか、それに対する患者さん・ご家族からの反応にどのように応じると良いか、が書かれています。シナリオ形式で対応が書かれており、実際的な本だと思います。研修医の先生には是非勧めたいと思います。また、若手医師でなくとも自分の説明技術を見直すのに良いと思います。著者のRobert Buckman氏は本書での紹介によれば、カナダのトロント・サニーブルック地域がんセンターのMedical Oncologist(腫瘍内科医)でトロント大学内科学教授だそうです。翻訳は恒藤暁、前野宏、平井啓、坂口幸弘の各氏。ホスピスでのご経験が豊富な先生達です。

基本的なコミュニケーション技術が第3章で紹介されています。閉じられた質問(はい、いいえで答えられる質問)は、病歴聴取には効果的だが「医師が気づいていないことや、尋ねていない事柄に話がいかない(p46)」欠点があるということです。一方、開かれた質問(自由に答えられる質問)は、「特定の問題についての詳細な情報を必要としている場合には有効ではない。しかし、1.新たな領域の質問を使用としている場合、2.方向性を探っている場合、3.患者がどう感じたのか、またはどう感じているのかを明確には理解しかねている場合、開かれた質問は極めて有効(p46)」とのことです。患者の話を聞いていることを示すために、反復や言い換えなどのテクニックが紹介されます。このあたりを意識して使うと有効な感じがします。少し前に流行った話の聞き方の本に、同じようなテクニックが書いてあった気がします。医療の場といえども、会話のテクニックは他の分野と共通するものがあります。ただし、良い話は少ないので、その点で配慮が必要になります。

特に注意が必要なのは患者さんの言葉に対して共感的な応答をする場合で、共感的な応答は「患者が何を感じているかを医療従事者が推測しているのである。もし正しければ、面談の速度は上がり、その状況に対する患者の見方に短時間で近づくことになる。もし間違っていれば、問題が生じる可能性がある(p57)」ということです。患者の感じていることを理解していると確信できなければ、「開かれた質問を使いなさい(p57)」。患者さんの感情を分ったつもりになって、実はズレが生じていれば、コミュニケーションがぎこちなくなります。特に悪い知らせを伝えるようなシリアスな場面では。

悪い知らせの伝え方の6段階アプローチというものが第4章で紹介されています。6段階に分けることで、説明の手順がすっきりすると思います。
第1段階は面談にとりかかる、として面談前の準備について書かれています。
第2段階は、患者がどの程度理解しているかを知る、段階です。患者さんに「これまでご自分の病気を、どういうものであると思っていましたか?」とか「この病気・これらの症状についてとても心配していましたか?」などと聞いて、「病気の予後に関する理解度を知る(p70)」段階です。
第3段階は、患者がどの程度知りたいかを理解する段階です。具体的な質問の例として、「もし病状が悪くなることがあったら、あなたは何が起こっているかを正確に知りたいと思うタイプの人ですか?」とか「もし病状が悪ければ、どの程度知りたいですか?」などというものが挙げられています。
第4段階は情報を共有する(整理と教育)段階。この段階では情報開示と治療的対話の2要素があるとのことです。情報開示にしても治療的対話にしても、「今後の構想を頭に描いておくことは重要(p79)」で、ポイントとしては、「1.診断 2.治療計画 3.予後 4.援助」だそうです。
第5段階は、患者の感情に応答する。いろいろな反応があるわけで、それについては第5章を割いて解説しています。
第6段階は計画を立てて完了です。今後の計画を立てるのですが、「最初の話し合いで現在と将来の全ての問題に対する全ての解決方法を提供する必要は無い。状況が不確実であることを示すのはいっこうに差し支えないし、誠実であり良いことである。(p94)」無理せずできる範囲で行うことが良いようです。

実際はこの過程を行ったり来たりでしょうが、やらなくてはいけないことをこのようにまとめておけば、説明が散漫にならず、分りやすい説明と印象付けられるのではないでしょうか。

第5章では、患者の反応に対してどのように応じたらよいか、具体的なシナリオが紹介されています。患者の感情に応答する、というのがなかなか難しいわけです。対応のパターンとしては、1.閉じられた質問、2.敵意のある応答、3.開かれた質問、4.共感的な応答、です。共感的な応答が良いが、場合によっては開かれた質問でも良い、というのは第3章でもかかれていました。

例えば、患者さんが示す「自分が癌だとは信じられない」という感情に対してのシナリオですが、
喫煙する以外には健康管理に熱心な40歳の男性が、通常のレントゲン写真で肺がんと診断される。そして「レントゲン検査で、肺に腫瘍があることがわかりました」とあなたが伝えると、患者は「しかし、私はマラソンをしているんですよ」と答える。そこであなたの応答には次のようなものがある。

閉じられた質問
 「元気なので、がんになるはずが無いと思われるのですか?」

敵意のある応答
 「いいですか、あなたは病気と向き合わなく無ければならなくなったのです。あなたは、がんになったのです。」

開かれた質問
 「このことを聞いてどう思われましたか?」

共感的な応答
 「とても元気であると思っているときに、深刻な病気を受け入れるのはとても辛いことに違いないと思います。」(p113)

上のようなシナリオでは、開かれた質問か共感的な応答が良いとのことでした。開かれた質問は、「この質問に対する最初の反応が、敵意を含むものであることは十分あり得る。(中略)しかし、あなたは何を感じるのが望ましいかを患者に言いたいのではなく、ただ患者の言葉に耳を傾けたいと自覚しているはずである。特に患者のことをよく知らない場合には、この応答は無難な選択肢である。(p114)」個人的には開かれた質問が、翻訳という問題があるのでしょうが、もう少し日本語としてしっくりくると良いと思います。感情表現が文化によって違うという問題もあるのかなと思いますが。「失礼かもしれませんが」とか前につけるといいかもしれません。「どんなふうにお考えになっていますか?」とかかなぁ。ま、何かアレンジが必要だと思います。後の例もそうなんですけれど。共感的な質問が良いのは、言うまでも無いでしょう。

患者が怒りを表明した場合というのも対応に困るわけです。
患者は、2ヶ月前から上腹部通があり、胃潰瘍による穿孔と診断された。患者は、「あの医者は、私の痛みは大したことは無いといったのに胃潰瘍だった。あの藪医者め!訴えてやる」という。そこで、あなたの応答としては次のようなものがある。

閉じられた質問
 「その医師はバリウムを飲むように言いませんでしたか?」

敵意のある応答
 「いいですか、もしあなたがその医者を訴えるつもりでしたら、あなたは私から何の援助も得ることができなくなりますよ。」

開かれた質問
 「今、どう感じていますか?」

共感的な応答
 「このことを早く見つけることができなかったので、怒っていらっしゃるのですね。」

閉じられた質問は、「「バリウムを飲むように促さなかった」と言うことで、あなたは既に前の医師を非難する患者の側に立つことになる。何らかの事実にもとづいた情報が無ければ、これは危険な行為となる。第一に、この患者は前の意思に対する恨みを増強させるために、あなたの権威を利用する可能性がある。そして、患者はあなたの支持を得て、裁判に訴えるという強い誘惑にかられるかもしれない。第二に、前の医師に対してこのような気持ちを持つ患者は、すぐにあなたに対しても同様の気持ちを持つ可能性がある。したがって、医学的な問題の是非についてのコメントは控え、患者の感情を受け入れる方法を見つける必要がある。(p141―142)」安易に質問することで、大変な結果になってしまいそうです。気をつけなければなりません。
敵意のある応答は、「患者の怒りをさらに助長させる原因となるだけ(p142)」。当然ですね。
開かれた質問に対しては、「患者の反応は激しく、怒り、恨みや非難などの感情が噴出するかもしれない。しかし、患者の感情を聞くことをあなた自身が求めたのであり、ある程度あなたはこの状況をコントロールしており、証言するために訴訟に駆り出されるということはないであろう。(p142)」
共感的な応答は、「さらに患者の怒りを引き起こすかもしれない。しかし、開かれた質問と同様に、あなたが患者の怒りの対象となることはないし、患者の怒りをより強めてしまうことにもならないであろう。この共感的応答によって、”過去にすべきであったこと”から”現在、しなければならないこと”へ移ることが可能となる。(p143)」このまま話すのではなくて、日本語の会話としてもう少し自然な感じにする必要があると思いますが、やはりこの場面では共感的な応答が一番でしょう。でも、怒りに対応するのはかなり難しいことだと思います。

他にも、病気の否認、恐怖と不安、希望・絶望・抑うつ、罪悪感、などに対する対応が書かれています。泣いた場合には「ティッシュかハンカチを差し出す(p153)」。この部分が、「現代社会の倫理を考える2 生命と医療の倫理学 伊藤道哉著 丸善株式会社」の第2章 告知、インフォームドコンセントで紹介されていました。この部分だけでも、かなり実際的な本だと分ってもらえると思います。

第6章では、家族や友人、医療従事者の反応に対する対応も書かれています。家族に対する説明や対応も、医療現場では重要なことです。また、医療従事者も人間で、患者からいろいろ影響を受けることは避けられず、それによる感情的な反応が生じてしまいます。そんなことに対しても、注意を向けて「医療従事者がマザー・テレサのようになれなくとも、悪影響を最小にすることができるだろう。(p196)」自戒したいと思います。

原題はHow to Break Bad News A Guide for Health Care Professionals。医療従事者にとって、大変有用な本だと思います。

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がん患者への告知 医師に学会が伝授
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三余亭
2006/06/12 19:11

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