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zoom RSS 【入門 医療経済学  「いのち」と効率の両立を求めて 真野俊樹著 中公新書】

<<   作成日時 : 2006/07/26 14:55   >>

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医療費抑制が叫ばれており、医療関係者もコスト意識をもつことが求められています。「内科レジデントマニュアル」という研修医向けの本(専門外の分野に対応する必要があるときには研修医でなくとも役に立つ本)でも、第5版から薬価の記載がされるようになりました。研修医時代からコスト意識が重要になっていると、指導医が考えていることの表れだと思います。

「科学者とは何か 村上陽一郎 新潮選書」によれば、ヨーロッパ中世では医師への報酬は、医師の背中の袋に金額を見せずに何人もが入れるというやり方だったそうです。このやり方であれば、払える人は多く払い、払えない人は払わなくてもわかりません。このやり方の理由は、
神との誓約の下で、神との約束を果たすために働く仕事に対する、一般の人々の「敬意」の証しであり、その「名誉」を承認する印しなのである。だから、その中身はゼロであってもよい。ゼロもまた「オノラリア(名誉)」の一つである。一万円も、50円も、そして零円も、「敬意」の印しとしては、変わらないのである。
同じような金額の集め方は、昔行ったことのあるプロテスタントの教会の寄付集めでもやっていました。教会の寄付の集め方と医師の報酬の集め方が同じだと知ったとき、ここに書かれていることが本当なのだと納得しました。報酬に敬意も含まれている時代が昔はあったようです。

そんな良き(?)時代はとうにすぎ、現在の医療には薬や検査・治療機器の開発費・製造費がかかってしまいます。医療費をある程度高くしないことには医療機関が潰れてしまいます。現在の医療費は結構高くて、アメリカでは保険に入っていないと破産してしまう人が居ることが、毎日新聞の記事に書かれています。

今回読んだ新書では、
第二次大戦後、医療については「価格を通した市場メカニズムの資源配分の帰結」が、基本的人権にかかわる分配の公正の観点から見て妥当ではないと考えられるようになり、アメリカ以外の経済的先進国では皆保障制度的なシステムが作られていった。つまり社会保障制度により、医療へのアクセスに対する金銭的なハードルを低くした経緯がある。
逆にいえば、市場メカニズムが機能する(価格が利用量に影響する)からこそ、社会保障制度による費用支援が必要なのである。(p121)
と書かれています。そうだろうな、と思います。自己負担額が高くなったら多少の体調不良は我慢する人がいるだろうな、と思います。顔が浮かんできます。

しかし、「医療サービス需要の経済分析 井伊雅子・大日康史著 日本経済新聞社」には
仮に医療費が同額であったとしても、日本のような国民皆保険制をとる国と、アメリカやヨーロッパの一部で行われている民間医療保険をとるくにでは、質的に大きく異なる。後者では個人によって選択された医療サービスと、それに対応する医療費負担であるため、それがいかに高水準であろうと、一義的には効用最大化をもたらしている。他方、前者ではそうした選択の余地が無い(あるいはきわめて小さい)ため、そこでの医療費水準は効用最大化をもたらさない。換言すれば、国民皆保険制度のもとでは、医療費増大の問題は、質的に、より深刻である。(医療サービス需要の経済分析 p1)
と書かれています。費用支援は必要だが、なんでもかんでも、というわけには行かないというのが現実なのでしょう。というわけで今回取り上げる新書に書かれているように
一番むずかしいことは、医療という財をどのように考えるかという点になる。すなわち、経済学でも大きな課題になったように、価値判断、たとえば医療を受けることができる人とそうでない人の差をどう考えるかといった命題、とくに金銭的な差がある場合をどう扱ったらいいのかという問題に行きついてしまう。(p117)


というわけで、このような難しい問題を扱う医療経済学について、医師であり経済学博士、MBAでもある著者による新書の紹介ですが、残念ながら経済学の知識の全く無い医療関係者には読むのがつらいかもしれません。

医療関係者としては、普段なじみがない経済学の用語が読みにくいのは仕方ないかと思います。ただ、用語が説明される前に使われてしまうのが少しありましたが、これを直してもらえれば、もう少し読みやすくなったかもしれません。例えば、80ページの経験財と信頼財という言葉が出てきますが、私の見落としが無ければ、経験財の説明や注は次の章である98ページまで無いようです。信頼財は見つけられませんでした。84ページと127ページで価格弾力性という言葉が出てきますが、説明は見つけられませんでした。90ページの消費者便益の説明も、不十分かと思いました。以上の用語は、経済学者を対象としていれば、説明は不要なのかもしれませんが、「はじめに」で
本書は医療経済学という経済学の分野について興味のある方々―経済学の初学者だけでなく、患者・医療関係者・医療関係者になろうと志す人びとも含めて―に向けて、ハンディな医療経済学入門書を目指して執筆したものである。(p ii)
と書かれており、もう少し配慮していただければと思いました。ま、わからない用語が出てきてもネットで調べてどうにかなることが多いですから、経済学を知らない医療関係者も読めないことはないと思います。

DPCに触れられているというのは、医療関係者が読んで損は無い点だと思いました。著者によれば、DPCはマネジメントのツールとしても重要とのことです。
現在はほとんど普及していないが、今後管理会計の仕組み(原価計算)が進むことで補強される。逆にいえば、DPCによって医療の質の管理が容易に行われるようになるので、病院の内容・レベルが明確にされ、病院間の比較が可能になる。(中略)このベンチマークに、現在利用されているような大雑把な平均在院日数だけでなく、疾患ごとの重症度を加味した平均在院日数の比較といった、より精緻なものを基準として利用できることがDPC導入の利点といえる。(p182)
DPCは疾患ごとに定額制にして支払いを少なくする目的以外に、その病院の医療を他の病院の医療と比較するためにも使用できるわけです。この点を強調すれば、現場の医師にもDPC導入が比較的受け入れやすくなるのではないでしょうか。この病院間の比較に使用できるという考えが社会に広まれば、DPCを導入していないということは比較されると困る病院であると、一般の方々に受け取られかねないかもしれません。そうなるのかもしれないし、そうならないのかもしれないのですが、イメージとしては、DPC導入をしていない病院は比較されると困る病院ということになりかねません。

医師としては、医療費抑制の必要性もわかるのですが、一方で医療事故・過誤の防止対策や技術の進歩、機器の開発など、医療費が高くなる要素もたくさんあり、一律な医療費削減では医療事故・過誤防止対策がおろそかになり却って患者さんの不利益になるような気もします。しかし、自分の家族に医療費がかかる場合は安いほうが良い、という気持ちもあります。金が無いやつは死ね、という社会もどうかと思います。しかし、金がある人間が受けたい医療を受けられない(例えばサリドマイドテモゾロマイド)というのもどうかと思います(現在の日本では保険で認められていない診療を保険診療と混合してはいけません)。これらの問題について、個人として筋の通った意見を持てないところがあります。

金と命の問題は難しいです。

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