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zoom RSS 米軍の市民殺害疑惑と【戦争における「人殺し」の心理学 デーヴ・グロスマン著】

<<   作成日時 : 2006/07/01 12:25   >>

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イラクで米軍による市民殺害疑惑が明らかになりました。【戦争における「人殺し」の心理学 デーヴ・グロスマン著 ちくま学芸文庫】を前に取り上げましたが、残虐行為についても書かれておりましたので、それを基に考えたいと思います。

朝日新聞です。
イラク駐留米兵が強姦殺人か 新たな疑惑浮上
2006年07月01日10時23分

 イラク駐留の米兵たちが今年3月、同国中部の民家で女性を強姦(ごうかん)したうえ、その女性を含む家族計4人を殺害した疑いが浮上した。米軍が洗い出しを進めている、米兵によるイラク市民への暴行・殺害の中でも深刻な事件の一つになりそうだ。
(中略)
 米軍による事件としては、昨年11月に西部ハディサで女性や子供計24人が殺害された問題のほか、複数の市民殺害疑惑が浮上。6月21日には海兵隊員ら計8人が起訴された。イラクのマリキ首相は米軍に徹底調査を求めている。


読売新聞では、
イラクの米兵5人、市民一家4人を殺害?…米軍が捜査

 【カイロ=柳沢亨之】イラク駐留米軍は30日、バグダッド南郊マフムディーヤでイラク市民一家4人を殺害した疑いで、複数の米兵に対する捜査を始めた、と発表した。

 AP通信は米軍当局者の話として、この米兵らは、4人のうち若い女性1人をレイプし、殺害した上、残り3人も殺害した疑いが持たれている、と伝えた。イラク国民と政府の反発は必至だ。

 同通信によると、事件が起きたのは今年3月。関与したとみられる米陸軍の下級兵士5人は既に米軍に拘束され、うち1人は犯行を自供した。米兵らは殺害した女性の遺体を焼いた疑いもあるという。イスラム教で遺体を火葬することは固く禁じられている。

 マフムディーヤなど首都南郊はイスラム教スンニ派武装勢力の拠点の一つで、住民の反米感情が根強い。首都南郊の町ユスフィーヤでは今月、米兵2人が何者かに拉致、殺害された。AP通信によると、今回自供した米兵はこの2人と同じ小隊に所属していた。
(2006年7月1日1時18分 読売新聞)


どうにもやりきれない事件です。

【戦争における「人殺し」の心理学 デーヴ・グロスマン著 ちくま学芸文庫】の第五部では戦争での残虐行為について書かれています。著者の残虐行為に対する態度は明解。若い兵士たちに対して、
(捕虜を殺さないで)武器を取り上げて縛り上げたうえで、どこかの空き地にでも残していけば、アメリカ軍は捕虜を丁重に扱っていると噂になるだろう。するといざというときになって、おびえて疲れきった敵兵が、死ぬよりはましだとそろって降伏してくることになるんだ。(中略)最後に言っておくが、英雄気取りで捕虜を殺している現場をおさえたら、私がその場で諸君を射殺する。違法行為だから、不正だから、罰当たりなことだからだ。そんなことをしていたら、勝てる戦争も勝てなくなる。(p329)
と話すことにしていたそうです。実利的な観点からばかりの残虐行為への反対ではないようで、
残虐行為―罪もない弱者にたいするこの近距離殺人は、戦争の最も忌まわしい一面である。そして人間のうちにあって残虐行為を許すのは、人間の最も忌まわしい一面なのだ。(p361)


しかし、戦争から残虐行為はなくなりません。それは、残虐行為には利益があるからだそうです。
残虐行為の利益と聞いてだれでも思いつくのは、人を震え上がらせることができるということだ。殺戮し虐待する者のむきだしのおぞましさと残虐性を前に、人々は逃亡し、隠れ、弱々しい自衛を試み、しばしばおとなしく従ってしまう。(p333)

実際に人を殺した兵士は、おまえは女子供を殺した殺人犯だ、許しがたいけだものだと責めたてる自分の一部を抑えこまなくてはならない。身内の罪悪感を否定しなければならない。世界は狂っていない、自分が手にかけた相手は畜生以下なのだ、邪悪な害虫なのだ、国や上官の命令は正しいのだ、そう自分で自分を納得させねばならない。(中略)そしてさらに、この信念を脅かすものには、それがなんであれ激しく攻撃を加えねばならない。(中略)さらなる殺人へ、虐殺へと殺人者を縛り、またその力を与えるのは、犠牲者の血である。この資格付与の基本的な心理は、悪魔的な殺人や狂信的な殺人の動機そのものだ。(p337)

残虐行為を命じた者は、命令を実行した者に、そしてその大義に、罪悪感によって強力に結び付けられる。(中略)全体主義国家の指導者は、部下を残虐行為に参加させることによって、寝返る恐れのまったくない手先を手に入れることができる。(p338)


しかし、利益ばかりではありません。
残虐行為を強制することで人を結束させる場合、このプロセスをあるていど持続させるには正当性という基盤が必要である。(中略)しかし、そこにはやはり自滅の種子が内包されている。(p343)

残虐行為による結束強化と資格付与のプロセスを経験すると、個々の成員はその集団にからめとられる。なぜなら、かれらの本性に気づくその他の勢力はみな敵対勢力になるからである。(p344)

飛び抜けて有能な戦闘組織をもっているのに、ウクライナを<解放>して、離反したソ連の部隊をナチスの大義に転向させるチャンスをナチスは活かせなかった。問題は、みずからに力を与える源泉そのものに足をすくわれたということだ。ナチスは民族差別主義をとり、残虐行為の基盤として敵の人間性を否定してきた。かれらの軍隊が戦闘において強力だったのはそのためである。だが、人間性を否定してきたがために、<アーリア人>以外は人間として扱うことができなくなってしまった。最初のうち、ウクライナ人はナチスを解放者として歓迎し、ソ連軍はこぞって降伏した。だがほどなく、ナチスはスターリン主義のソ連よりなお悪いと気づき始めたのである。(p344-345)

第二次大戦のバルジ戦の際、ドイツの親衛隊はマルメディでアメリカ人捕虜の一集団を皆殺しにした。この虐殺の噂はアメリカ軍全体に野火のように広まり、何千もの兵士がなにがあってもドイツには降伏するまいと腹をくくった。(p345)

残虐行為を犯す者は背後の橋を焼きはらったのと同じで、降伏が許されないことを知っている。しかし、残虐行為はかれら自身に力を与えるのと同時に、敵にも力を与えているのだ。(p346)


最近、米軍の残虐行為が次々に明らかになっていますが、これがテロとの戦争が長引き、世界を不安定化させる要因のひとつにならないように、イラク人やイスラム教徒が納得される処分を罪を犯した米兵にされることが必要なのではないかと思います。ただ、女性が犠牲になったということで、簡単に納得してはいただけないかもしれません。というのも、
女性や子供に危険が迫った場合、そしてまた戦闘員がかれらを保護する責任を引き受ける場合には、戦闘の心理は変化する。雄どうしの慎重に抑制された儀式的な戦闘だったものが、巣を守るけものの情け容赦のない血みどろの戦いに変化するのである。(p288)


アメリカ人がドイツに降伏するまいと腹をくくったように、テロリストは米軍の残虐行為を材料にアメリカを中心とする世界(日本もふくまれるのでしょう)に対する憎悪を持ち続けているとすれば、戦争をした目的が達成できなかったことになりはしないでしょうか。

戦争の目的を達成するために殺人能力を高めようとすれば、相手との心理的距離を大きくするような訓練が行われ、相手の文化を尊重しなくなり、そして残虐行為の敷居が低くなってしまい、その結果、戦争の目的を達成できなくなってしまう矛盾。うまく戦争をすることは大変難しいことだと思いました。人間にはうまく戦争をすることはできないのかもしれません。

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