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【不完全性定理】は、ゲーデルの不完全性定理の解説書です。そして【無限論の教室】もゲーデルの不完全性定理が関連してきます。前者は応用数学者が書いた超数学・メタ数学(数学についての数学)の本、後者は哲学者が書いた数学の哲学の本です。両者を読み比べることによる相乗効果があると思います。2つの本を読むことで、排中律の禁止、メタ数学の目的、不完全性定理による有限の立場でのメタ数学への影響などに対する理解が深まる気がします(勘違いしている可能性も大ですが)。 ゲーデルの不完全性定理が証明される歴史的背景は、以下のようです。 1.カントールが集合論を創る。 2.その集合論においてラッセルのパラドックスが出てくる。 3.ラッセルのパラドックスへの対処として、直観主義をブラウアー(不完全性定理ではブローエル、無限論の教室ではブラウアー)が唱え、排中律が禁止される場合があると言い出す。 4.ヒルベルトがそれに異を唱え、証明の形式化と、数学自体を研究する超数学・メタ数学を提唱する。 5.ゲーデルの不完全性定理が証明される。 6.無矛盾性、完全性などが有限の立場で証明できるというヒルベルトの期待がかなわぬものとなる。 ブラウアーが直観主義を唱えて排中律の禁止を言い出すのですが、排中律の禁止の適用場面ついては注意が必要です。 排中律が認められるか否かということは、その対象を実在のものとみなしているかの基準となります。そして、直観主義は、無限に対して非実在者としての態度をとり、その結果無限が関わる領域では排中律を拒否するのです。注意してほしいのですが、一般的に排中律を拒否するわけではありません。実在するもの、有限なものに対しては構わない。ただ、無限がからむと拒否します。(無限論の教室 p176)【不完全性定理】では、ブラウアーの考えが以下のように書かれています。こちらの方がやや具体的でわかりやすいかもしれません。 典型的な問題は、「ある性質をみたす実数が存在する」ことを証明するときに発生する。対象が有限個なら、それらを一つずつ全部調べれば、「存在するか否か」が確定する。しかし実数は無限にあるから、ひとつずついくつかを調べることはできても、「全部を調べ尽くす」ことはできない。そこで次のような方法がある。少しずれますが、2冊読むことで、排中律の禁止の具体的内容や、その背景にある実在・非実在の考え方などが、わかりやすくなります。 このブラウアーの直観主義に対して、 ヒルベルトはこう言っています。『数学者から排中律を奪うのは天文学者から望遠鏡を、ボクサーから拳を奪うようなものだ』そして、無限集合論を『楽園』と称し、『何人たりともカントールの楽園からわれわれを追放することはできない』と大見得をきったのです(無限論の教室 p185)そして では「数学は絶対に安全確実といえるか」という問いに対して、ヒルベルトはどう答えたのだろうか。彼は「それは数学的な方法で解決しよう」と提案した。そのためにはまず数学を、数学的な研究の対象として扱いやすいように、きちんと形式化しておかなければならない。(中略)公理化・体系化・形式化を徹底的に推し進め、「数学が安全確実である」ことを数学的にきちんと証明しよう―それが彼の「形式主義」の精神である。(不完全性定理 p131)この方法で、数学のレベルでもメタ数学のレベルでも排中律が使えることが以下に書かれています。 形式主義というのは、形式化され純化された公理系とその無矛盾性・完全性を証明するメタ数学の二本立てを提唱するのです。そうするとどうなるか。(中略)排中律がよみがえるのです。(中略)ヒルベルトの狙いがよくわかります。確かに、これがうまくいけば大成功です。 しかし、ゲーデルが不完全性定理を証明してしまいます。それにより、ヒルベルトが狙っていたことが実現できずに終わってしまうようです。不完全性定理については、個人的には【不完全性定理】の解説の方が定理そのものの理解はしやすいです。少し証明の解説もされているのが良いのかもしれません。その【不完全性定理】によれば、ゲーデルの不完全性定理は、 (イ)形式的完全性:任意の閉じた論理式Pについて、Pそれ自身か、その否定−Pかのどちらかが、必ず証明できる。(p242) というように形式的完全性を導入して、 自然数論を含む述語論理の体系Zは、もし無矛盾ならば、形式的に不完全である。(p246) というのがゲーデルの第一不完全性定理。 Zがもし無矛盾ならば、Zの無矛盾性をZの中で証明するのは不可能である。(p259) というのが第二不完全性定理。 【無限論の教室】では 第一不完全性定理―無矛盾で完全な自然数論の公理系を作ることはできない 第二不完全性定理―有限の立場でのメタ数学では自然数論の無矛盾性は証明不可能(p202) とされています。こちらの方は、メタ数学に与えた影響がわかりやすい表現になっています。 ということで 「無矛盾性、完全性などが有限の立場で遠からず証明できるであろう」というヒルベルトの楽観的な期待(不完全性定理 p265)にとどめが刺されたとのことです。数学に矛盾があったらまずいだろうと思いますが、【不完全性定理】によれば本来の「有限性」の立場にはおさまっていないながらも、集合論を含まない「純粋の自然数論」の無矛盾性は証明されたとのことです。ひと安心です。それでも、不完全性は残るようですが。 「あちこちの解説書で見かける、不完全性定理の「普及版」(不完全性定理 p253)」として Zが無矛盾ならば、正しいのに証明できない論理式がある(p252) というのが紹介されていて、実はこの普及版の解説は何度か読んだことがあるのですが、どうも腑に落ちなかったのです。【不完全性定理】で証明を少し解説してもらえて、ようやくこの意味がわかりました。すぐ忘れるかもしれませんが。 話が変わりますが、【無限論の教室】によれば、無限に対して2つの立場があるそうです。 無限のものがそこにあるのだと考える立場から捉えられた無限は『実無限』と呼ばれ、可能性としてのみ考えられるとされる無限は『可能無限』と呼ばれます。(p33)科学哲学の実在論と反実在論と似ているようです。【系統樹思考の世界】でもそうでしたが、私、どうも、実在論とか反実在論とかいうものに引っかかってしまいがちです。 実無限と可能無限の考え方の違いは、以下でよく説明されています。 πの小数展開は人間が遂行する以前に定まっていて、人間はただそれを見出していくだけだと考えれば、ちょうど『この山のどこかに宝が埋まっている』という予言を確かめるときのように、『πのどこかに7の十個つながりが埋まっているか埋まっていないかどちらかだ』と考えてしまうでしょう。しかし、これはまさに実無限的な考え方です。(中略)しかし、可能無限的な観点からすれば、πというのはその小数展開を順番に作り出していく規則であり、展開されていく小数は、その規則に従って構成されて初めて産声をあげる存在者なのです。(p173-174)人間とは無関係に「ある」か、人間が「作り出す」か、の違いといっても良いようです。科学哲学の実在論と反実在論の関係に似ているような気もします。あくまで類推ですが。なお、数学では実無限が優勢のようです。 【無限論の教室】ではゲーデルの不完全性定理を解説したあと、次のように書かれています。 可能無限の立場からはこう言えます。公理系が必要ならば作ってもよい。しかし、完結した公理系など作れっこないのです。無限は完成を拒んでいます。そこからはみ出たものを捉えようとし、捉ええたと思ったときには新たなものがはみ出ていく。(中略)例えばπの小数展開に対して人間が為した有限の展開が、完結した無限小数としてのπの不完全な認識なのではなく、際限のない未完の作業であるように、それはむしろ、永遠の未完成というべきなのです。(p229) ゲーデルは「ガチガチの実在論者(無限論の教室 p208)」ということで<blockqote>ゲーデルにすれば、数学はいささかも無内容なゲームではありません。有限の立場からのメタ数学などもよけいなお世話です。自然数論とは、実在論者にすれば、実在する数の世界の秩序を人間が部分的に記述したものにほかなりません。それを公理系として一望のもとにおさめようなどとしても、不完全になるにきまっています。(p208)と書かれていますが、【不完全性定理】では「従来の公理系では解けなかった難問を解決するための理想化された体系を構想し、新しい強力な公理を模索した。(p270)」と書かれていますから、公理化に反対しているわけではないと思いましたが。また、後に否定したということですが、ゲーデルは「この定理(第二不完全性定理)はヒルベルトの形式主義的見解と相反するものではないし、形式的体系の内部では表現できない、有限の立場による証明もありうる(p262)」と言っていたということですから、【無限論の教室】のように有限の立場からのメタ数学が余計なお世話と思っていたと断ずるのは問題があるかもしれません。 何はともあれ、2冊とも面白い本でした。 |
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【不完全性定理 ゲーデル 林晋・八杉満利子訳・解説 岩波文庫】
今年はゲーデルの生誕100年になるので、ゲーデルに関連した本がいろいろと出ているようです。ちくま学芸文庫からも【不完全性定理 野崎昭弘著 ちくま学芸文庫】が出てました。勉強になりました。その【不完全性定理】のあとがきで、いろいろ教えていただいたと触れられていた林晋氏と、八杉満利子氏による、ゲーデルの不完全性定理の翻訳と解説です。 ...続きを見る |
三余亭 2006/12/14 01:02 |
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