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zoom RSS 【ビッグ・ファーマ 製薬会社の真実 マーシャ・エンジェル著 篠原出版新社】

<<   作成日時 : 2006/10/05 20:24   >>

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ニューイングランド医学雑誌(New England Journal of Medicine、NEJM)前編集長による製薬業界批判の本です。同時に製薬会社に依存している医学界も批判されています。日本とシステムは同じではないとはいえ、耳の痛い話でした。

アメリカの薬価の問題は、毎日新聞で取り上げられているように、深刻なようです。そこからの引用です。
 TRIPS協定の影響は米国の患者にも及んでいる。米国は日本を含む多くの国と違う自由薬価制で、政府が薬価を統制していない。さらに協定で特許期間が延び、薬価は下がらなくなった。

 カナダやメキシコへ安い薬を買い出しにいくツアーがある。カナダと国境を接するメーン州のデニンソンさん(80)は、米国では特許が延長され買えないコレステロール低下剤のジェネリック薬を見つけた。「値段は半分。驚いたよ」

 同州では03年、ツアー参加者の運動をきっかけに、州が事実上薬価を統制できる「メーン・レックス法」が施行された。製薬業界の団体はメーン州を訴えて最高裁まで争ったが、州側が勝訴した。

 立法に尽力したピングリー元州上院議員は「製薬会社はいろんな手を使って特許の延長を図ってきた」と指摘する。「薬自体は同じでも、別の病気にも使える」「飲む回数が少なくてよいものにした」……。企業側はこんな理由を重ねた。
と、アメリカでは薬価が高いわけです。

著者のマーシャ・エンジェル氏は製薬会社の以下の点を重点的に批判しています。

1.製薬会社が作り出しているのはゾロ新薬(すでにある薬の化学構造式を少し変えて新薬として出す薬)ばかりで、画期的新薬は少ししかないこと。
2.米国食品医薬品局(FDA)が本来規制する対象であるはずの製薬業界に隷属してしまっていること。
3.製薬会社が自社の製品が関係する臨床試験に干渉しすぎること。
4.特許や排他的販売権の期間が不必要に長く、いかようにも延長できること。
5.製薬会社が自社の製品について、医師の教育に干渉しすぎること。
6.研究開発、広告宣伝、薬価算定に関する情報が公開されないこと。
7.薬価が高すぎること、不安定なこと。
(p298)


なかなか厳しい批判で、医師にとっても耳が痛いことがいくつもありました。今回は、画期的新薬が少ししかないこと、臨床試験に干渉すること、医師の教育に干渉すること、の3点を考えてみたいと思います。

1.画期的新薬が少ししかない

この本では画期的新薬の意味は、以下のように製薬業界で使われる意味とは異なる意味で使われています。
画期的新薬と呼ぶことができるのは、原則的には新規分子化合物であり、かつ優先審査される薬だろう。すなわち、画期的新薬とは、既に市販されている薬よりも著しく効果が優れた新規の分子である(製薬業界では、「画期的」という言葉を単に新規分子化合物という意味で用いることが多いが、それではその新薬が既存の薬より臨床的に優れているのかどうかという一番大切な問題が忘れ去られてしまっていることになる)。(p73)


その画期的新薬ですが、1998年では16個、1999年には19個、2000年には9個、2001年と2002年は7個と、徐々に減ってきていること。また、新薬は1998年から2002年の間全部で415個承認されていたそうですが、新規分子化合物は133個、うち優先審査薬は58個だったそうです。画期的新薬は全体の14%しかないということです。この本の出版以降のデータですが、すみません、調べてません。

2001年と2002年のデータで、画期的新薬があるかどうかも検討されています。グリベックが2001年に承認されており、これは「生きるか死ぬかをきめてしまうほどのもの(p75)」と真に画期的なものと認められていますが、他の画期的新薬は「既存の薬が効かず、治癒が期待できなくなったときに、最後の手段として用いられるものに過ぎない(p75)」と辛口の評価です。私としては、2001年に承認されたゾメタは点滴時間が短くてすみ便利な薬だと思うのですが、同じような薬剤は確かに他にも売られています。真に画期的とはいえないかもしれません。

著者は「この傾向をみると、ビッグ・ファーマが表向きには研究開発に投資しているといっている300億ドルを超える資金が、うまく使われているのかどうか疑問に思わざるをえない。また、画期的新薬の研究開発のために、製薬会社は他の産業よりも製品の価格を高くして利益を多くもらっているのだというのであれば、製薬会社は画期的新薬を作るという約束を十分には果たしていないと言わざるをえない。(p75)」と述べています。

著者はかけている金額の割りに画期的新薬が少ないと批判していますが、製薬会社に好意的に考えれば、薬で思いつくことはやった、という状況かもしれないと思います。最近のNEJMでは、心筋梗塞の患者に骨髄細胞を使って心機能を良くしようとした試みが論文になっています。薬物療法以外の新たな治療方法が増えてきたと思います。

画期的新薬が少ないことを好意的に解釈しましたが、実は、新薬の候補は製薬会社が自分で研究しているのではなく、NIHの資金(つまり公的資金)で研究している大学などが見つけたものを、特許使用料を払って排他的ライセンスをもらっているとのことなのです(p75-86)。

日本では薬価は製薬会社が自由に決めるわけではないので、アメリカほどの問題は起きないのではないかとは思いますが、税金での成果で一部が利益を得るということの問題はあるかとは思います。特に、今日本では産学共同が流行っていますが、大学での税金での研究結果で経済的利益が得られそうな場合、特許使用料として大学にだけ還元されるだけでいいのかどうか、国庫に入れなくていいのかどうか、利益が巨額なら日本でも問題になりそうな気はします。

2.臨床試験に干渉すること

自社の製品に不利な結果がでれば発表しない等々の例が、著者によって書かれています。このようなことがあれば、不利益をこうむる患者さんも増えることになり、由々しき事態であることは間違いありません。

しかし、最近では有力雑誌は事前に登録した臨床試験の結果でなければ受理しないと方針を決めており、日本でも臨床試験の事前登録が進められています。詳しくはこちらこちらで。こうすることで、発表されない臨床試験の存在もわかり、内容もある程度わかりますから、発表されないということから研究結果もある程度推測できるようになると思います。有力誌がこのような方針を決めたのは良いことだと思います。

また、論文の著者が企業から金銭をもらっている場合には利益相反(conflict of interest, COI)として論文に明記するようになっています。さらに加えて、今年度の癌治療学会では、臨床試験委員会・倫理委員会シンポジウム癌治療研究と利益相反(COI) −産学連携による臨床研究推進への取組みというシンポジウムが開かれるようです。どのような発表なのかは、参加しないのでわかりませんが。しかし、日本でも研究と利益相反(conflict of interest, COI)への対処が重要になってきているわけです。特に大学発ベンチャーというものがもてはやされている現状では、研究結果がベンチャー企業の不利益になる場合の利益相反にうまく対処することが必要だと思います。但し、最近の企業の不始末(パロマ、三菱自動車等々)を考えますと、自社に不利益なことでもきちんと公表して対処することが、結局は良いようです。

企業からお金をもらっていると、企業に対して不利になることは発表しにくくなるのでしょうが、そのようなことを防ぐ手段もとられつつあります。

完璧に企業の干渉を防ぐ手段かどうか、正しい研究結果を知ることができるのか、と言われれば、隙はある方法である可能性は否定できません。しかし、読者が論文が企業からの影響がある、つまりは企業の広告としての性格のある論文である、とわかる材料が増えてきているとは思います。読む側としては大変注意が必要なところではありますが。

3.医師の教育に干渉すること

この本で紹介されているアメリカの生涯教育システムと日本のシステムは違うので、そのまま当てはまるわけではありません。しかし、学会や研究会に製薬会社は寄付したりしていますから、構造としては似たようなものがあります。日本でも生涯教育が義務付けられれば同じような状況になる可能性はあります。

本書に拠れば、アメリカでは医師生涯教育(CME)が義務付けられている州がほとんどとのことです。そこで、生涯学習のための講演会や講義に出席しなくてはなりません。その教育プログラムは医師生涯教育認定機構(ACCME)が認証しているということです。医師生涯教育プログラムの費用は、医師が全て自腹を切っているわけではなく、2001年の時点で60%を超える金額を製薬会社が支払っているということです。(ちなみに私の教科書代や毎月の購読雑誌は自腹です。企業の広告は商業雑誌には入っています。学会への出張費すら自腹です。(これは所属している教室で違うらしいということを知ったのはつい最近です。))また、製薬会社は民間の医学教育コミュニケーション会社(MECC)に講演会の企画、教材の作成などを委託しており、AACCMEはMECCが提供する医師生涯教育プログラムを100件ほど認定しているということです(p178)。

ということは、
つまり、MECCには、ビッグ・ファーマのための仕事をする一方で、自分の顧客の生産する薬について公正な教育を医師に提供することが求められているのである。皆、こうしたあからさまな利益相反には気づかない不利をしているが、MECCの製薬会社に対する売込みの文句をみれば、真実が何かは明らかである。「医師生涯教育は、貴社製品の主要な購買層にメッセージを届ける強力なツールです。受講者が貴社の製品を選ぶようにさせます」。これはすなわち、「おまかせください、医師が御社の製品を処方するようにしてみせます」という意味である。(p178-179)
これが教育によるマーケティングの手法のようです。

日本でも、学術大会でのランチョンカンファレンス(昼休みに弁当が出されて、食事しながら講演を聴く時間)では興味ある話がされることもあります。新しい知見が話され、それにより治療行為が影響を受けることもあるでしょう。そういうランチョンカンファレンスは大抵は企業協賛です。ランチョンカンファレンスの後で医師の治療行為が企業の思惑通りになっている可能性もあるかもしれません。患者さんの利益に反していれば問題が生じるでしょう。

製薬会社が学術大会に支出しなくても、学術大会がやっていけるかどうか微妙な面があるのだろうと思います。まだ、偉い立場ではないので、そのような会の会計がどのようになっているか知らないのですけれど。

でも、著者のおっしゃることももっともで、
製薬会社の援助を断ると会費を値上げせねばならないのであれば、それはそれでしかたがないではないか。学会も派手さを抑え、真剣に目的意識を持って開くようにすれば、もっと有意義なものになるだろう。(p312)
正論だと思います。余談ですが、アメリカでの国際学会の会費は日本に比べて高めです。アメリカの医師の収入に合わせているのでしょうけれど。これ以上あがったら医師の収入がアメリカより低い国からの参加者は減るのかもしれません。

話が変わるのですが、医師教育とは違って宣伝活動と考えたほうが良いのかもしれない話題なのですが、ジェネリック医薬品は効果がよくないと医師に伝えたという先発薬メーカーの行為が以下のように報道されました。不当と非難されても仕方ないと思います。
後発医薬品:使用、医療機関に不安−−公取委調査

 開発から20年たって特許が切れた医薬品と同じ成分で作られる後発(ジェネリック)医薬品について、「必ず使う」「場合によっては使う」と考える消費者が97%に上る一方、医療機関の85%は「安全性や情報量などで不安がある」と使用にためらいがあることが、公正取引委員会が27日まとめた調査で分かった。

 後発医薬品は、研究・開発コストが少なくて済むため価格が安く、政府は医療費抑制のために使用を促進している。ただ、後発品に不安感を持つ医療機関は多く、実際には普及は進んでいない。

 医療機関への聞き取り調査では「先発品メーカーが後発品の不安をあおる説明をした」「後発品の効能が低いというデータを見せられたが、根拠があいまいだった」など、不当な情報提供で後発品採用を妨害する行為が報告された。公取委は「妨害行為は独占禁止法違反に当たる」と指摘している。【小林理】

毎日新聞 2006年9月28日 東京朝刊


根拠があいまいなことを言ってはいけません。さすがにこれは行き過ぎだと思います。

4.最後に

著者は、ゾロ新薬ではなく画期的新薬をつくること、FDAの独立性を高め立場を強化すること、臨床試験を監督する機関を作ること、薬の独占販売権を今より制限すること、製薬会社が医師の教育に介入しないようにすること、製薬会社の情報(用途ごと、薬の品目ごとの開発費用、マーケティング費用等)を公開すること(製薬会社は税制上の優遇処置、医薬品の公衆衛生上の重要性、政府が医薬品の買い手であることから製薬業界は公益事業とみなすべきとの意見です)、薬価を全国共通に適正にすること、を提案されています。日本では当てはまらないことも多々ありますが、普段なあなあでやっていることを反省させられる本でした。

発展途上国で薬剤が高くて購入できないという問題もあります。製薬会社の利益と人の命の問題と、これからグローバル経済で問題になっていくのでしょう。

尚、訳者達がどういう経歴か詳しくわからないのが残念です。どのような活動をしている組織に所属しているか、製薬会社や医療の問題に精通しているかどうか、そもそも製薬会社との利益関係はどうかなど、いろいろなことを判断する材料になるのですけれど。その種の情報は、このような批判をしている本では大切なことだと思います。翻訳者たちに利益相反があるのかどうか、知りたいところです。

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