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zoom RSS がん難民と【日経メディカル2006年12月号 特集 国立がんセンターは必要か?】

<<   作成日時 : 2006/12/11 00:06   >>

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がん難民という言葉を最近良く聞くようになりました。最近の毎日新聞の記事では、
がん難民:全国で70万人 医師の説明に不満、転院繰り返す−−NPO試算

 ◇「治療方針に納得できない」

 がん患者の半数は、医師による最初の治療方針の説明に不満を抱くか、納得できる治療方針を選べなかったと考えていることが、NPO法人「日本医療政策機構」(代表理事、黒川清・内閣特別顧問)の調査で分かった。同機構はこうした患者を、よりよい治療を求めてさまよう「がん難民」と定義、全国で約70万人に達すると試算した。(以下略)
と日本医療政策機構では定めているようです。「医師による最初の治療方針の説明に不満を抱くか、納得できる治療方針を選べなかった」人が、全国で約70万人とのこと。しかし、記事を読みますと、
東京大が昨年1〜6月、がん患者会などを対象に実施したアンケートから、患者1186人分の回答を抽出し、がんの種類などが偏らないよう補正して分析した。
ということで、患者会が主な対象のようですから、無作為抽出ではないわけです。調査の結果が母集団に当てはめられるのだろうかという疑問は当然出てきます。調査対象の方は、がん治療に対して意識の高い方、不満を持ったが患者会の情報で助けられた方などが多いのでは無いのだろうか、果たしてその調査での割合を癌患者全体の割合として掛け算しても正しい数字なのだろうか、という疑問を持ってしまいます。

加えて、 患者は何でも知っているでも書かれていましたが、
患者満足度というものは、評価に使うには十分ではないそうです。その理由は、「患者の満足度はおおむね期待の度合いによって決定される。すなわち、患者の期待の度合いが低ければ質の低いケアでも患者は満足する。(p165)」。
患者の期待に左右されないようにするためには、患者の受けたケアの経験を評価するのが良いそうです。ピッカー研究所が開発した方法では、病院の環境だけではなく、患者に「どういった情報が与えられたかを思い出してもらうよう依頼する(p166)」「もし患者がいかなる情報をも思い出すことができないとしたら、(中略)この事実はヘルスケア組織にとって重要なことである(p166)」「患者の経験はサービスの質の直接的な指標となる(p193)」。


ということを考えるなら、治療方針に納得したとかどうかではなく、どんな説明を受けたかこそが大切なわけです。不満だった、とか、自分が納得できなかったではなく、病名、予後、治療方法の種類とその成績や合併症について聞いたかどうかが大切なのです。

というわけで、個人的には日本医療政策機構が使っているがん難民という言葉は、本当に病院が見つからない患者と、自分の耳に入りやすい話をしてくれる医師を求めている患者の区別が曖昧で問題があると思います。この2つを区別することは非常に重要です。

がんセンター中央病院副院長の笹子先生は「がん難民という言葉が安易に使われすぎている。死から目をそむけている限り、患者は難民化する。人には寿命があり、その前提から、医師と患者が思いを共有することによって初めて、難民のない医療が実現する。(日経メディカルCancer Review 2006.12.5 Winter p8-9)」とおっしゃっています。その通りだと思います。日本医療政策機構のがん難民の統計は、人には寿命があるということから目をそむけている人の数も数えているのだ、と批判されてもしかたありません。

ということで、日本医療政策機構のがん難民の数は、政策決定の根拠にはするべきではないと思います。

以上、前振りなのですが、今回は日経メディカル2006年12月号の特集で国立がんセンターは必要か?という記事を考えてみたいと思います。、国立がんセンター中央病院の話です。

日経メディカル12月号でも”がん難民”という言葉が使われています。日経メディカルではがん難民とは「適切な治療を受ける病院が見つからない患者のこと。特に、再発後や終末期にそうした状態になる患者のことを指すことが多い。(p60)」この定義の方が、日本医療政策機構による定義よりも良いと思います。というのも、日本医療政策機構の定義では患者満足度のような欠点のある指標の要素が多分にあるのに対して、この定義では、そもそも治療を受ける病院が見つからないというより単純に解釈できる指標で、この定義なら数字に基づいて政策決定しても問題は少ないと思うからです。

がんセンターは必要か?の記事ですが、病院としてのあり方、他部門の意義が議論されています。

まず、病院としてのあり方ですが、日経メディカル12月号では、中央病院院長の土屋先生のお話として、「うちが”がん難民”を量産している側面があった。国民の期待は見放さないで、がん難民にしないで、ということ。これ以上、がん難民を作らないことが最優先だ。(p63)」と書かれていました。日経メディカルCacer Reviewでは、がん難民を作らないための対策として、患者の受け入れ先である在宅医療支援診療所や地域病院の医師らを招いた緩和ケアチームと在宅医療合同検討会が開かれ、その様子が書かれています。

がんセンターといえば、今までは根治が見込める患者、あるいは初回治療の患者を中心に治療していくイメージでした。緩和治療には積極的ではないイメージです。ところが、どうもこれが評判が悪いらしいのです。がんセンターで治療を受けていた肝臓癌患者さんのお話が出ていますが、「今年の3月に、いきなり「もう来なくていいですよ」と言われました。「うちは、治る患者さんに施術するところなのです」と。「そう言わずに、続けて診てください」という気持ちでした。治らないものは仕方がないし、あきらめなければならないのかもしれません。でも、4年間も治療してもらって、最高のお医者さんだと思っていた人から、あんなにスパッと切り出されるのは、本当にきついものです。」他に、私大病院の外科医の話として、「”がん難民”を一番たくさん出しているのが、国立がんセンター。再発したら『自分で病院を見つけてください』と冷たく伝える。混雑しているのはわかるが、もっと自分の施設で対処する努力をすべき。再発患者を診ることができないならば、癌治療を行う資格はない。」と、手厳しいのです。本当に冷たく伝えたかどうかは、ちょっと控えめに考えなくてはいけませんが。

同じ国立がんセンターでも東病院には緩和ケア病棟がありまして、同じがんセンターでも緩和医療もやっているということで”がん難民”問題には巻き込まれずに済んでいるようです。

緩和ケアにも重点を置く病院になる、ということであれば特に問題はないであろうと思います。でも、今までがんセンターが果たしてきた、臨床試験を積極的に行いがんの治療成績を向上させる、ということは手抜きして欲しくはありません。その点は心配ないようで、日経メディカル12月号には「国立がんセンターは、「臨床試験に注力しながらも、患者を見放さない」というモデルに移行しようとする。(p63)」とあります。しかも、いくつかある今後の方向の一つとして、「中央病院の徹底縮小案。他の病院でも診ることができる患者を受けることはやめ、稀少癌や難治性の癌の治療と、早期の臨床試験に特化する(p63)」ということは最低ラインとして残すようです。それこそが、がんセンターの役目であって、どんなことがあっても稀少癌や難治性の癌の治療と、早期の臨床試験については力を入れ続けていただかなくてはいけないと思います。逆に言えば、そこが手抜きになるくらいなら、緩和医療に力を入れることは諦めて、”がん難民製造工場”と悪口をたたかれてもよいと思います。がんはまだまだ治らない病気です。治すための研究が必要です。がんを治すための研究こそががんセンターの役目です。普通の病院とは役目が違うはずです。

次に、全部門点検として研究所や最近できたがん対策情報センターについても触れられています。がんセンターは2010年度に独立行政法人となることが決まっていますが、それに伴い「国立がんセンターの組織のうち、どの機能が必要で、何が不要かという議論が必然的に高まらざるを得ないわけだ。(p66)」「例えば研究所。発癌メカニズムやゲノム解析を主力に研究をしている。だが、「大学の研究所との違いがわからない」「違いがないなら不要ではないか」といった声もある。(p66)」

この意見に対して院長の土屋先生は「「分子生物学しかやっていなかった。これでは、社会から批判されても仕方ない。工学、社会学や介護学、医療政策や医療体制への提言などをやるべき」と述べた。土屋氏は「衣替えして、研究所無用論を阻止したい」(p66)」と語ったとのことです。でも、工学、社会学なども学際研究をするというなら総合大学に出資して学部の枠を超えた研究所を作ったほうが才能も集まり仕事も早いのではないかという気もしますし、医学も工学も社会学もというなら大学との違いがますますなくなるのではないか、という気もします。

私は研究所は必要だと思います。がんセンターの機能評価に関する厚生科学審議会への報告書にあるように、
3.2 研究開発分野・課題の選定について
(中略)
特に多くの部門で、息の長い努力を必要とするがん研究に積極的に取り組んでいる姿勢が高く評価された。 このような研究テーマは、国立がんセンター以外ではなかなか支援し続けにくいため、我が国のがん研究の発展のために、 今後もこのような姿勢を堅持するようにとの指摘がなされた。
と思うからです。がんセンターという使命のある機関でなければできない年月のかかる研究は、他の施設では少し難しいのではないかと思います。具体的な研究としては、前向きの疫学研究が頭にありますが、分子生物学でも同じようにがんセンターでなければ結果がだせない研究というのがあるのだろうと思います。

学会では、がんセンターの先生はいろいろとうるさく、まあいろいろと思うところもあるのですが、独立行政法人となっても癌の治療成績を上げるための研究には力を入れ続けていただきたいと思います。普通の病院とは役割が違います。がんセンターは必要です。

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内 容 ニックネーム/日時
お尋ねすること自体道理からはずれているのは承知のうえです。ご了解下さい。
弊社嘱託の運転手が今夏片肺の肺癌で「片肺上葉切除」致し二週間後に退院。医師の診断書を請うと復職可能との診断書を頂きました。本人が言うには却って体を動かすよう指導されたくらいとのこと。が、完治していないようで通院し抗癌剤投与。だが肝機能がγGTP400以上あるので投与停止で肝機能回復を待つ状態。彼の話はバイアスなしで医師の耳に届くとは不明である。
彼に車の運転が可能か否か、医師に確認したい。労務士は他人に知らせる訳がないと言う。ならば手紙でもと提案したが内容を本人が知るなら可と。渡すかも怪しい。私は彼の仕事を奪うは不本意。QOLの為にもまた生きる気力の源になればと少しでも長く勤めて欲しい。逆に無理に働かせて事故や病状悪化になるのも不本意。
私には責任もある。このような場合どうすれば病状の確認がとれるのか、悩んでいるのです。
薬も変わるだろうし個人情報の問題の間で普通どうなさってるのでしょうか。彼には身寄りはありません。
KI
2006/12/13 02:06
ある患者さんで、その方も運転手さんでしたが、上司の方が見えられて患者さんの病状を説明したことがあります。そのときは、その患者さんから説明して欲しいと頼まれましたので、上司の方にご説明しました。上司の方は管理者としての責任があるので直接医師より聞きたいと希望されたようです。
個人情報保護法ができる前のことでした。
もし患者さんが希望されないにも関わらず、上司の方が説明を求められた場合にどうするかですが、法律に詳しい方に相談して対応を決めたと思います。
職場から仕事ができるかどうかの診断書が要求されたから書いてくれと頼まれることもあります。診断書に虚偽を書けば医師が罪に問われますから、診断書にはまず間違いのないことを書く医師が大部分だと思います。
ご相談の件ですが、まずは、その上葉切除された患者さんに、使用者責任の問題があるので医師に車の運転が可能かどうか聞きたいと話されてみてはいかがでしょうか。それで患者さんの許可があれば、医師と直接お話しするのが良いかと思います。
許可が出なかった場合にどうしたら良いかは法律に詳しくないので、なんとも言えないのですが。
三余亭
2006/12/13 22:05
御丁寧にありがとうございます。
結局、本人が急性肝炎で入院となりました。原因は癌後任者を求人をはじめました。私は就労可能で深刻さの度合いは別にして癌と共存可能と考えました。本人が社会的に求められているという生きる気力をそぐような気がいたしましたので、後任者を雇用する行動に踏み切れませんでしたが仕方がありません。最悪のケースになってしまいました。

余力のない企業ですので、後任者を雇用し引継ぎが終わると、配置転換いたしますが、それがなかなか曲者で潔しとしない被雇用者の場合だと、いっそ病状が悪化すればさっぱりするのにと不謹慎にも頭に思い浮かべてしまったこともあります。いけませんね。
ありがとうございました。
KI
2006/12/15 14:47

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