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zoom RSS 筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者と人工呼吸器

<<   作成日時 : 2007/08/04 01:41   >>

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筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis, AMLALS)という疾患があります。外側および前皮質脊髄路の変性、脊髄前角の大型神経細胞の脱落・変性、舌下神経核、顔面・三叉神経運動核の変性がみられる疾患です。筋力低下、筋萎縮、呼吸筋麻痺が出てきます。眼球運動障害や膀胱・直腸障害、褥瘡をきたすことは少ないとされています。人工呼吸器と適切な看護で10年以上生存しうる例があるとのことですが、人工呼吸器をつけなければ5年以上の生存は13%とのことでした。根本的な治療はない疾患です。古い朝倉内科学第5版(10年以上前に購入)からのまとめでした。専門じゃないし古い教科書からなので、間違っていたらごめんなさい。でも、状況としては今とあまり変わらないと思います。

さて、そのAMLALSになってしまった場合、人工呼吸器をつけるかつけないか、大変もめるところなのです。その一例が「神経内科」という雑誌に発表されたようです。

毎日新聞からですが、
ALS患者死亡:呼吸器装着説明は「家族の総意」で行わず

 全身の筋肉が動かなくなる難病「筋萎縮(いしゅく)性側索硬化症(ALS)」を発症した義母に対し、京都府長岡京市で内科医院を開業している主治医の男性医師(54)が、病状の説明や人工呼吸器を使えば長く生きられることなどのインフォームド・コンセント(十分な説明に基づく同意)を求めず、義母はそのまま死亡していたことが分かった。医師は医学雑誌「神経内科」(今年5月号)に経緯を投稿。「呼吸器装着可否の決定を、患者すべてに一律に求めることは妥当なのか」としている。

 同誌によると、義母は、発症当時は59歳。03年1月ごろ、総合病院でALSと診断された。病名は告知されたが、呼吸器使用などの明白なインフォームド・コンセントはなかった。

 医師は在宅担当の専門医として引き継ぎ、家族から、(1)義母にこれ以上の情報は与えない(2)義母は日ごろ、「呼吸器などつけたくない」と言っていたことなどから、これ以上のインフォームド・コンセントは求めず、人工呼吸は行わない−−などの同意を得た。義母は四肢まひが進行し、06年10月に呼吸困難で死亡。死の前日までよく会話し、笑顔も見せたという。

 医師は同誌で「呼吸器装着に関する自己決定の過酷さを避け、あくまで患者の穏やかな死を、近親者が総意として望んだ結果」としている。

 一方、日本神経学会が02年にまとめたALS治療ガイドライン(指針)は「病名告知と病気の説明」について「告知は最初から患者と家族に同時に行う」「患者の理解や受け止め方を観察しながら適切な方法で説明する」としている。作成にかかわった田代邦雄・北海道大名誉教授は「慎重な議論を経てまとめた指針で、推奨するが強制ではない」と話している。

毎日新聞 2007年8月2日 12時56分


読売新聞もほぼ同じ内容なので違う部分を引用しますと、
ALSの義母、呼吸器着けず死亡…医師は詳しい説明せず

 京都府長岡京市で開業する神経内科医が、全身が動かなくなる筋委縮性側索硬化症(ALS)の女性患者に対し、日本神経学会治療ガイドラインで定められているインフォームド・コンセント(十分な説明に基づく同意)を行わないまま、延命のための人工呼吸器を装着せず、女性が死亡していたことがわかった。

(中略)

 医師は読売新聞の取材に対し、「批判も多くあると思うが、家族全員が悩んだあげく、目の前の患者にとって最良の道を考えた」と話している。

 指針作成に参加した国立病院機構宮城病院の今井尚志・診療部長の話「指針に拘束力はないが、一般論として患者自身の知る権利は、『周囲の知らせない権利』よりも優先するべきだ。医師に任せたいのか、自分で決めた医療を受けたいのかも、患者の選択肢といえる」
(2007年8月2日21時15分 読売新聞)


難しい問題です。

今までいろいろ書いてきた延命治療の問題と異なるのは、今までの話が延命治療の中止の問題だったのに対して、今回は延命治療を行うかどうかの問題であることです。

延命治療を中止するかどうか決める際にもめるのは、患者の意思がはっきりしていなかったし、それを確認することがすでにできないことが原因です。しかし、今回のALSでの延命治療を行うかどうかの問題は、ALSと診断された時点で患者の意思を確認できたわけですから、患者に病名や病状を知らせないでよいのか、という問題になると思うのです。

私は癌専門の医師で診療しておりますが、今でも高齢の患者さんのご家族が本人に癌だと知らせないでくれと言ってくることがあるのです。(とは言っても最近は、高齢の患者さんにも癌だと知らせるご家族がだんだん増えてきて、特にここ数年はそちらの方が多数派だとは感じるのですが。)

そんなふうに知らせないでくれと言われた場合、非常に困るのです。嘘は必ずばれます。真実は一つですが、嘘は真実とは違って何通りもあるのですから、あの医者はこう言って、でも看護師はこう言って、別の医師はああ言って、と違う点がいくつも出てきてしまいます。周りが嘘をついても、「自分は癌なのだ」と悟る患者さんが大多数です。ご家族が思われるほど、高齢の患者さんは耄碌されておりません。まぁ、御高齢の方は優しい方が多く、うそに騙された振りをされている方が多いように思いますが。

もう10年以上前になりますが、告知されない方もまだ田舎では多かった頃、私の師匠の一人は、「本当のことを伝えないと、これからだんだん悪くなっていくうちに患者さんが疑心暗鬼で孤独になるから、今のうちに伝えましょう。」と御家族を説得して患者さんに癌と告知していました。師匠の言うことを、もっともだと思いました。以降、なるべく告知するようにしています。御家族の強い強い希望で告知しなかったり、前医に戻すので告知しなかったり、本意ではないこともありましたが。

「呼吸器装着に関する自己決定の過酷さを避け、あくまで患者の穏やかな死を、近親者が総意として望んだ結果」とか、「批判も多くあると思うが、家族全員が悩んだあげく、目の前の患者にとって最良の道を考えた」とか、御家族が思われていても、ご本人は実は全部わかっていたんじゃないかという気がします。

話が変わりますが、癌を告知して治療に同意していただく、というのは普通に行われていることです。転移が見つかったときなどは患者さんにとって非常につらい選択です。ですが、このことはがんを中心にみる病院ではある程度は(全部の病院で、全員にとは言いませんが)行われていることです。自己決定の過酷さは、現在医療を受ける場合には避けることができません。(胆管癌か胆嚢癌を告知しなかったのが問題になり裁判で負けた判例があったはずで、それが原因かどうかわかりませんが、告知することは日本でも一般的になってきました。知らせないと患者の自己決定権の侵害で裁判で負けるのではないでしょうか。)

そしてそれ以上に、読売に出ていた今井尚志先生の「一般論として患者自身の知る権利は、『周囲の知らせない権利』よりも優先するべきだ。医師に任せたいのか、自分で決めた医療を受けたいのかも、患者の選択肢といえる」というのは正しいと思います。

医療を受ける受けないを選択するのは、本人が自由に、そして責任を持って決めるべきことなのではないかと思うのです。どのような最期を迎えるか、というのは、人の思い通りにならないことは相当ありますが、やはりできる限り本人の希望に沿うべきだろうと思います。そして、自分の命を左右する決定を人に任せると意思表示しない場合には、誰もその人の命を左右する決定をしてはいけないのではないかと思います。

今回の件の場合、少なくとも、「子供に任せる」という言葉を聞いておくべきではなかったかと思います。義理の子供が主治医になると家族関係と医師患者関係がぐちゃぐちゃになってしまって大変なんだろうとは思いますが。

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筋萎縮性側索硬化症(ALS)
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三余亭
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