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zoom RSS 【高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院 水月昭道著 光文社新書】

<<   作成日時 : 2007/12/20 01:59   >>

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昨年のNHK特集で放送されたワーキングプアTおよびUを見て、ワーキングプアと呼ばれる方達の実態を知り衝撃を受けました。働いても生活保護以下の水準というなら働くことに何の意味もないではないか、あんなに働いても生活するだけでやっとなら将来に夢も希望もないではないか、そのような状況から抜け出す方法がないなら生きていく意味を見出すことが難しいのではないか、まぁいろいろ考えたわけです。この前の日曜日(2007年12月16日)にもワーキングプアVとして放送され、労働の意味を深く考えさせられました。経済や労働を取り巻く条件が個人が将来を予測し準備する余裕を与えないほどに急激に変化するなかでは、ワーキングプアの問題は個人の責任に帰すことができないような気がします。

さて、今回取り上げる【高学歴ワーキングプア】は、数年前から始まった大学院重点化により増えた博士号取得者が就職できずにバイト生活を余儀なくされている実態を紹介し、大学院に進学する意味や、学校法人の社会的意義を考えている新書です。著者御自身も博士号を取得されておりますが、非常勤講師の身分(初版第3刷の著者紹介より)とのことで、当事者そのもの。

博士が就職できないでいるらしいと、前に書いたことがありましたが、本書を読みますと人文系は相当ひどいようです。

さて、前書きに以下のようにあります。

現在、大学院博士課程を修了した人たちの就職率は、おおむね50%程度と考えていい。(中略)その二人に一人は定職に就けず、”フリーター”などの非正規雇用者としての労働に従事している。
こうしたフリーター博士や博士候補が、毎年5000名ほど追加され続けているのが、日本の高等教育における“今”なのである。(p4)


国家資格を有する職業の一つである医師の場合、医学部の定員数は決められていて医師数が多くならないように調節されています。今は少なくなりすぎてるのではないかと問題にされていますが。そういえば弁護士は少し数が多くなったようで就職がどうのこうのと言ってましたね。養成に時間・手間・金がかかり、他につぶしのきかない専門職業に従事する人間の数を役所がいろいろ調整していますが、難しいものです。うまくいかないことが多いのでしょう。

博士号は国家資格ではありませんが、他につぶしのきかない養成に時間や手間や金がかかる専門職業ということでは、やたらと増やしてよかったかどうか。状況をみると正当化しにくいのではないかと思います。

短大や大学への進学者は、きわめて順調な成長路線を歩んできた。だが、一転して、今後は急激に減少していく。その勢いは、放置しておけば、大学が潰れていくことが容易に想像できるほどのものだった。
成長減退を経験したことがなかった高等教育の現場が、真っ青になったことは想像に難くない。大学が潰れれば、教員もあぶれ出す。だが、彼らが慌てふためいた理由は、それだけではなかった。成長路線のなかで維持され続けてきた教員ポストがいきなり減るということは、自学(東大)を修了した院生や同系学閥教員の“派遣先”がなくなることをも意味していたからだ。
大学(東大)が、派遣先というパイを失うのと同様に、いやそれ以上に、文部科学省にとって大学市場の急激な縮小は、それまで築き上げてきた自らの権益(各種補助金や天下り先)も急速かつ大幅に縮減することを意味した。(p5)

「既得権益を守らなければならない」(p6)

次から次へと大学院生は養殖され続けた。(中略)短大と大学、そして大学院を合わせた進学者数に注目すると、平成3年に比べ、今では減るどころかわずかながら増えているのである。つまり、高等教育市場は、少子化という逆風が吹く中でも、なぜか安定した成長が続いているのである。(p6)


大学院重点化は既得権益を守るために行われた、というところは、まぁそうなんだろうと思うんですけど、証拠は?と聞かれると厳しいかも。ま、既得権益を守るために行われることは、得てして別のことを目的として行われるわけです。表に出てくるのはその別の目的ですしね。証拠を出せと言われても・・・、というところなのでしょう。

さて、大学院重点化の方針が決まったわけですが、その結果、大学がこぞって大学院を設置する事態となり、研究大学ではない大学に設置された大学院、特に、「重点化後の私立大学―特に中堅以下(p30)」の大学に設置された大学院が「高学歴ワーキングプア」の生産工場となっていくというストーリーのようです。

地方私立単科大学に設置された大学院博士課程への進学を勧められた西村さんという方の話がでてきます。博士課程には教官から勧められて、進んだそうです。
西村さんのような形で、院生になってしまった者は修士でも博士でも少なくない。そして、ここが問題なのだが、彼のような立場の院生は、本来存在し得なかったということを指摘しておきたい。なぜなら、こうした私立大学では、本来、大学院を必要としていなかったからだ。(p35)


それに加えて、
大学側は完全に説明責任を果たしていたのか。新設大学院にありがちなリスクについては説明がなかったかもしれない。就職については、現実とはほど遠いことを言っていたかもしれない。(p51)


程遠いことを言っていたでしょうね、おそらく。

ところで、就職できないでいる博士の世代はバブル崩壊後の就職難世代と重なります。
90年代半ばから続いた若年労働市場における新規採用抑制の悪夢が、延々と繰り返されているようではないか。当時、仕事に就きたくとも就けなかった若者たちのなかで、大学院に流れてきたものも少なくなかったはずだ。(p81)
同じ世代が貧乏くじを引いているのです。バブルの影響は大きいですね。

そのような犠牲を払って進められた大学院重点化ですが、当初の目的は達成されているのでしょうか。著者は、以下のように書いています。
「博士を生産」する理由は、「欧米に伍する研究者数の確保と研究レヴェルの実現」という大義によるものだったはずだ。だが、現実はどうか。増えたのは研究者数ではなく、「高学歴ワーキングプア」だけではないか。(p96)


大学としては、人件費削減のためにも教員数は増やしたくないというのが本音でしょうから、大学勤めの研究者数は増えにくいでしょうし、その他の研究所も独立行政法人になったところが多く、そこも人件費は増やしたくはないでしょうね。正規雇用の研究者って増えにくいんだろうと推測します。

さて、そのような暗い状況で博士はどうすべきか。著者はある方を紹介しています。
佐谷宣昭氏は、九州大学大学院博士課程を今から7年前に終了した「人間環境学博士」である。(中略)現在34歳の氏は、パイプドビッツというIT関連会社の経営者だ。(中略)
「学問を身につけるということと、仕事をするということとを、必ずしも結びつけて考える必要はないのではないでしょうか。(中略)学問を身につける段階において獲得したさまざまな技能やフレームワークは、多くの分野においても転用できるものです。それは、必ずしも、学術の世界だけに留め置かれるようなものではないでしょう」(中略)
「対象に縛られてはかえって不自由になります。たとえば、アカデミズムの価値観。多くの院生は、そのステータス性に縛られているのかもしれません。こうなると、ある枠の中から飛び出せなくなるのです。」(中略)
「現代社会の変化のスピードは、恐ろしいほどです。こういうときこそ、立場にとらわれることから離れるべきです。自らが地道に積み上げてきたものを、一つの方向性だけでなく複数の道で、どのように生かせるかと考えることは、新たな可能性を見出すきっかけとなるかもしれないのです」(p178-179)


個々人の向き不向きがありますから、誰もが起業して成功するわけではないでしょうけれど、でも学んだことを生かせる他の道があれば良いですね。

新書の後半では、これからの大学院がどうなるか、学校法人の経営の問題なども触れられています。

博士の就職難の解決は、一筋縄ではいかない問題のようです。まずは研究者養成に不要な大学院に進学する人間を減らさないといけないでしょう。これ以上問題を大きくすべきではありません。さらに博士の能力をどう生かすか。小中の教員が増えるようですから、そこで仕事を作り出すというのも手かもしれないですね。朝日新聞です。
小中学教職員を増員へ 非常勤は数千人増も 政府
2007年12月15日11時54分

 政府は14日、公立小中学校の教職員の定数を08年度に、3年ぶりに増やす方向で最終調整に入った。これとは別に、小学校を中心として数千人の非常勤講師を配置する方向だ。文部科学省は教職員約7000人の定数増を求めていたが、公務員の減少を定めた行政改革推進法に反するおそれがあるため、小幅な定数増と非常勤の活用を組み合わせることにした。与党と調整したうえで08年度予算案に盛り込む。


公務員を増やしてもいいんじゃないかと思いますけどね。非常勤じゃなくて常勤にした方が安心して教育できるんじゃないかと思いますが。

大学院への進学を考えていらっしゃる方に、是非。

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2007/12/20 08:57

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
この本を読んだけど理解できないことばかり。

プー太郎のハカセ達が求めている物はなに?

金が欲しいのなら学部を卒業した時に就職すれ
ば良かったじゃん。金よりも研究したいと思っ
たからハカセ目指したんじゃあないの?
また、金になる研究は黙っていても企業がやるよ。
金にならない研究をしたかったから大学に残った
んでしょ。

学部出ても就職できなかった人たちは大学に残ろ
うがどうしようが結局フリーターになると思うぞ。
やま
2008/01/29 22:14
> 金よりも研究したいと思ったからハカセ目指したんじゃあないの?

その通りだと思います。だから、大学や研究機関に就職できずに研究ができないというのが問題なのだと思います。

同じような状況が法科大学院でおきています。せっかくたくさん作って人を集めて、挙げ句の果てに司法試験合格者が多すぎるという。バカにしています。

> 学部出ても就職できなかった人たちは大学に残ろ
うがどうしようが結局フリーターになると思うぞ。

その通りです。学部を出たときに就職口がなかったが、時間が経ってもその人たちを就職させられない、というのは社会構造の問題なのです。

ということを言っているのだと思いますが。
三余亭
2008/02/01 13:06

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