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zoom RSS 【科学を語るとはどういうことか 科学者、哲学者にモノ申す 須田靖・伊勢田哲治著 河出ブックス】

<<   作成日時 : 2013/06/15 00:24   >>

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本屋で見かけて面白そうだと立ち読みしたら一気に引き込まれてしまい、買ってしまいました。

宇宙論と太陽系外惑星の研究を専門とする物理屋の須藤氏と科学哲学と倫理学を専門とする伊勢田氏の対談。

伊勢田さんの著書は何冊か読ませて頂いております。
【疑似科学と科学の哲学  伊勢田哲治著  名古屋大学出版会】
【哲学思考トレーニング 伊勢田哲治著 ちくま新書】

対談なのですが、話がかみ合っておらず、そこが面白い。須藤氏が伊勢田氏の説明を理解できないところが大変面白いのです。
原因や因果についての話が全くかみ合っていないのです。
物理でも使われる言葉だからなのでしょうか、須藤氏の理解の仕方が物理から離れられていない印象を持ちました。
自由意志の議論も、なんだかかみ合っておりません。


いろいろな場面で須藤氏が具体的な例をと言っています。その一例を引用します。

伊勢田 (フラーセンが)その意味での光子の存在は認めないというか、コミットしないという立場です。
須藤   コミットしないとは、どういう意味ですか? 彼の言い分は、光子そのものは「見えない」のだと思いますが、そもそも我々の目で何かが見えるのはまさにこの光子が存在しているおかげです。すでに自己矛盾していませんか?
伊勢田 という理論ですよね。
須藤  確かにその通りです。この世界を理解する解釈がただひとつしか無い理由はありません。ひょっとしたら同等にうまく説明できる解釈が複数存在するかもしれない。その意味で、現時点の科学理論というか解釈のみを絶対視せよ、と主張するつもりはありません。しかしながら、それを批判して反実在論とやらを唱えるのであれば、既存の理論と同程度の完成度まで高めておくべきです。(中略)光子の実在を疑うのであれば、光子無しに目が見える説得力のある提案をしてから議論を始めてもらわないと、科学者が頭から相手にする気がしないのも当たり前でしょう。(p195)

この辺の気持ちはわかるなぁ。

科学哲学の入門書をいろいろと読んだ人間としては伊勢田氏の問題意識は分かるつもりですし、医師という仕事を通して科学に携わっている人間として須藤氏の反実在論に対するいらだちも十分分かるし、というところではあるのです。


反実在論に関して伊勢田氏の説明を引用します。
物理理論はそのまま受け入れるし、それが観測可能な事実をよく説明することも受け入れる。ただ、その理論がうまくいっている理由がメタフィジカルな部分まで正しいからなのか、別の理由によるのかについては保留する。(p202)


須藤氏の話でもっともだ、と思ったところを引用します。
(メタフィジカルなコミットメントってやっぱり難しいですか。と尋ねられ)難しい。(p227)

本当に難しいです。

反実在論について伊勢田氏が仮想ニュートンを例に説明していました。
ちょっと思考実験をしますが、誰かがタイムマシーンでニュートンのところに行って、現在の素粒子物理学のさわりの部分(光子とか電子とかも含めて)を講義したとします。仮にニュートンが「そんなの信じないよ」と一蹴して、しかし目に見えるものの存在は受け入れた状態で、力学の研究を続けたとします。このときの、ニュートンの頭の中の状態は、現在の反実在論者の状態とよく似ています。目に見えるものは受け入れて、現代の科学で存在が想定されている目に見えないものの存在は受け入れていない状態です。この仮想ニュートンは何らかの意味で矛盾を犯していますか?
(中略)
その反実在論者ニュートンが言うべきことは、「光子とか電子とかそんなものがあるとはちょっと信じられないけれど、確かに君の理論はうまくいっているねえ」ということです。(p212-213)

なるほど。

なぜ反実在論の立場をとる動機のひとつについての伊勢田氏の説明です。
ある意味で反実在論というのは大変保守的な態度なのです。これはファン=フラーセン自身の用語ではないんですが、反実在論の動機を説明するときに「認識論的リスク」という言葉を使うことがあります。これは、普通の意味でのリスクの話ではなく、我々にわかるかどうかに関係なく、誤ったことを信じてしまうということ自体をひとつの望ましくない出来事と考え、それをリスクと呼ぶ者です。(p221)
この辺、大変良くわかります。臨床医学も第3相試験は大変保守的に計画されて、試験治療が現在の標準治療よりよい成績でないなら標準治療は現在のまま、とすることが多いですから。

学問観の違い(p285)と伊勢田氏がおっしゃっておりましたが、全体を通じてデータによって説得する・される分野と議論によって説得する・される分野との間に大きな谷があるのだと感じました。手垢のついた言葉で言えば理系と文系の違いですが。

この本、科学哲学の入門書を読んだ後に読むと楽しさ2倍です。

なお、ブログを見直すと、結構な数の科学哲学の入門書を読んでたんですね。
【科学哲学の冒険 サイエンスの目的と方法をさぐる  戸田山和久著 NHKブックス】
http://cuttlefish.at.webry.info/200510/article_2.html
【アインシュタインの思考をたどる 内井惣七著 ミネルヴァ書房】
http://cuttlefish.at.webry.info/200512/article_4.html
【空間の謎・時間の謎 宇宙の始まりに迫る物理学と哲学  内井惣七著 中公新書】
http://cuttlefish.at.webry.info/200601/article_4.html
【ドーキンスvs.グールド 適応へのサバイバルゲーム キム・ステルレルニー著 ちくま学芸文庫】
http://cuttlefish.at.webry.info/200606/article_10.html
【赤を見る 感覚の進化と意識の存在理由 ニコラス・ハンフリー著 柴田裕之訳 紀伊國屋書店】
http://cuttlefish.at.webry.info/200612/article_3.html
【「科学的」ってなんだ! 松井孝典・南伸坊著 ちくまプリマー新書】
http://cuttlefish.at.webry.info/200709/article_4.html
【科学的に説明する技術 その仮説は本当に正しいか 福澤一吉著 サイエンス・アイ新書】
http://cuttlefish.at.webry.info/200711/article_1.html
【科学の世界と心の哲学 小林道夫著 中公新書】
http://cuttlefish.at.webry.info/200904/article_1.html
【量子力学の哲学 非実在性・非局所性・粒子と波の二重性 森田邦久著 講談社現代新書】
http://cuttlefish.at.webry.info/201202/article_1.html

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