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zoom RSS 【空間の謎・時間の謎 宇宙の始まりに迫る物理学と哲学  内井惣七著 中公新書】

<<   作成日時 : 2006/01/29 01:13   >>

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「主観的な意識の立場で「空間や時間の意味を問う」などという、よほどの才能がないとものにならないような考察は、本書ではすべてバッサリと切り捨てる(わたしにそのような才能がないことは、よくわかっているつもり)(p4)」と宣言され、現代物理学の時空の哲学を解説した新書です。昨年末に【アインシュタインの思考をたどる】を取り上げましたが、同じ著者による同じ分野の新書です。2006年1月25日発行の新しい本です。新書では宇宙論にも言及しており、取り上げる範囲は広くなっている印象です。そのぶん相対性理論の細かい解説は前著に比べると削られています。著者はライプニッツ流の「時空の関係説」の支持者(p7)と宣言されており、時空の関係説・相対説からの解説が中心です。

第2章 ライプニッツとニュートンは何を争ったか では、ライプニッツとクラーク(背後にニュートンが居たそうです)との論争が解説されます。前著ではわずかしか触れられなかったところです。ニュートン力学では絶対時間・絶対空間が導入されています。これがライプニッツは気に入らなかったらしく論争がおきました。ライプニッツは、「充足理由律」つまり「物事にはなぜ他でもなくこうでなければならぬという十分な理由が無ければならないという原理(p37)」を神の意思決定にも適用(p39)します。「「単に神がそう決めた」ということ以上の、実質的な理由が無ければならない(p39)」、という主張がされ、神の意思決定にもきちんとした理由を求めます。すると背理法による論証で、「絶対空間があったと仮定すると、絶対空間に事物が無いときには、その空間の1点は他の1点と区別がつかず、神がこの空間に物質世界全体を特定の場所におく理由が無い(神が充足理由律を満たさない)ので、絶対空間の仮定が成り立たない。だから絶対空間は無い。」(p46の記述より要約)、というわけです。

現代的な観点から、著者は神を「究極の理論」と読み替えて議論を再構成しても良い(p47)と述べ、究極の理論は「世界のすべての出来事に「なぜ他ではなくこうなのか」と理由づけを与えなければならない」という議論としてよみがえらせます。そうすることで、ライプニッツとクラークの論争を、科学のあり方についての議論としても捉えなおしています。ライプニッツは神の意思にも充足理由律を求めた、現在の観点では究極の理論を求めたということでしょう。クラークそして背後のニュートンは神の意思には内容を問わないことにした、つまり現在の観点では一部わからないことがあってもよしとする理論を目指したということになるでしょうか。この2つの考え方をめぐって、「目標をもっと手頃なところに絞って、できるところから空白を埋めていくという、ニュートンがとったような、強引な仮定をおいてでも実行可能な方策をとらなければ仕事が進まないのである。(p33)」と、とりあえずできることから手をつける方法を科学の進め方として著者は認めています。しかし、「ニュートン的な路線がうまくいったからといって、他方の路線やヴィジョンを切り捨ててしまうと、変革期や機が熟したときに指導原理が欠けることになる危険がある。(p33)」として、うまくいかなかった路線にも見るべきところがあるかもしれないという、成果主義の盛んな昨今には数少ない意見を表明されています。とりあえずは目の前の仕事をしながら、夢を見るってことが大事だってことですよね。

究極の理論を目指したであろうライプニッツの唱えた説は「時空の関係説(p47)」で、「空間とは、同時に存在しているもの(すべて)の間の関係あるいは秩序であり、時間とは、同時存在するもの(全体)が次々と移り変わる継起の順序である(p47)」という主張だそうです。具体的に、物の間の距離を使って物の配置を語ることにより空間を語り、時間については、物の配置が瞬間・時点であって、それが神の作った法則にしたがって次々と起きるとき、時間関係を生み出すと考えるのだそうです(p48-49)。神が作るのは物と法則だけで良く、空間や時間は物についての情報から構成できるというわけです。

こう見ると、関係説に基づいて、絶対時間や絶対空間という仮定を置かずに構成する力学ができれば、そちらのほうが究極の理論に近いように思えてきます。しかし、問題がありながらも何とか形になったのは、前著でも紹介されていた20世紀後半のバーバーらまでかかっています。それだって前著によればテクニカルな批判はあるようです。

また、現代物理学での「ひも理論」がライプニッツのモナドロジーの再現であり、「ライプニッツおそるべし(p81)」と書かれています。本当にライプニッツの支持者なんですね。

以上、第2章のみでも結構な内容が詰まっています。

第3章はバケツの回転する水の遠心力の話や相対性理論などの解説で、前著でも触れられているものが主です。前著よりも解説が少ない分理解しにくいかと思うのですが、雰囲気で読んじゃっても大丈夫かもしれません。

第4章は関係説力学(前著では相対主義力学でしたが、本書では相対主義の力学は相対性理論と紛らわしいので避けることにしたそうです(p137))としてバーバーらによる成果が紹介されます。バーバーらの関係説力学の解説は新書の方がわかりやすいかもしれないです。特に時間の構成の仕方は新書のほうがわかりやすいと思います。「バーバーの仕事にふれて、わたしは、「目から鱗が落ちた」というか、関係説の魅力を再認識した(p10)」、とも書かれているだけあって、熱のこもった解説です。

前著でフリーの哲学者・物理学者と紹介されていたバーバーの経歴ですが、新書で詳しく書かれていました。この本では理論物理学者(p153)と紹介されています。大学のポストにつくためには論文の量産が必要であるが、最初の論文を書くまでに何年もかかるようなので、大学のポストをあきらめ、ロシア語の科学論文を翻訳して生活費を稼ぎ、余暇に時空の基礎的な問題に取り組んだそうです。こう紹介されると、フリーと済まされるよりも怪しくないですね。

第5章は宇宙論・素粒子論もでてきて、最後に「ライプニッツおそるべし(p252)」で締めくくりです。本当にライプニッツの支持者なんだなと、改めて思いました。

物理の本か哲学の本か、わからなくなります。でも、関係説との関連が常に意識された解説であり、その点では哲学の本です。物理学者から見ると、こういう話ってどんな風に映るんでしょうか。どうでもいい話なのか、物理学者が積極的に関わるべき話なのか、どうなんでしょう。

著者の考えるライプニッツのスケールに合った、スケールの大きな話が展開される新書です。

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2013/06/15 00:25

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