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zoom RSS グリンネルの研究成功マニュアル Frederick Grinnell著 白楽ロックビル訳 共立出版

<<   作成日時 : 2006/02/05 00:44   >>

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「若い人たちに、科学研究の世界がどうなっているのか具体的に話しておくのは、彼らの研究人生にとても役に立つことだと思うようになった。」(pA)ということで、科学研究がどのようなものであるのか解説された本です。学部学生、大学院生、ポスドク、研究者、一般の読者向けとのことで、事実上、科学研究に興味のある方はどなたでも読める内容となっています。著者は細胞生物学を専門とされる方のようで、Google scholarで検索したら、結構な数のヒットがありました。本書では、最初の第1章、第2章は科学者のための科学者による科学哲学という趣で話が進み、第3章以降に具体的な科学研究や科学を取り巻く環境の話が書かれています。特に印象に残ったのは科学とお金にまつわるところです。

第1章 研究は普通の人間の普通の行為第3章 実験のデザインとデータの解釈で、研究者が研究テーマを選ぶ具体的な理由が書かれているところがあります。第1章では、研究費、実行可能性、重要性、面白さの4つ(p4)とのことです。述べられている順番も重要だとすれば、まず研究費を得られるかどうかが大事なのでしょう。その次が、研究ができるかできないか。面白さは三の次なんですね。第3章では、科学者の研究テーマの選択には科学的な理由もあるが、それ以外に人間臭い理由、つまり、出世、金、名声、個人的体験、他の研究者に負けたくない、などもあることが述べられています。ただ、「人間臭い理由がまともに扱われることはない。建て前がすべてなのである。(p32)」。科学的理由が建て前として前面に出てくるわけです。どこでも建て前が一番大事です。

第5章 いい評価を得る では、論文をいい雑誌に載せること、研究費を得ることが、研究者として評価を得るために重要なことが述べられています。論文の査読のされ方、すごい論文の条件、研究費の審査のされ方、研究費の申請書の書き方など、科学者の苦労がわかります。研究費の審査はアメリカの国立健康研究所National Institutes of Health (NIH)を例に詳しく述べられています。気になったのは「審査委員会の審査員はその研究分野の一流の研究者である。(中略)研究費申請書がある審査委員会で好意的に評価されると、担当の科学評価官は(中略)審査員にならないかとその研究者に声をかけたりする。その審査委員会の研究のとらえ方にふさわしい研究スタイルをもっている研究者である、と判断したためである。というわけで、1つの審査委員会は特定の思考スタイルと保ち続ける傾向が強く、保守的になる。研究者社会の特定の考えを伝統的に守る重要なメカニズムにもなっている。(p132)」という部分です。うまくいっていない研究でも、こんなメカニズムがあるなら研究費がもらえそうですね。研究費の配分ということで、科学の進み方をコントロールすることができそうです。また、研究費の申請書をうまく書くには、「やればできて、やる価値があり、まだやられていない研究内容を書けばいい(p140)」とのこと、感心です。また、アメリカにも学閥やらコネやらがあるようで、偉くなるためには「組織政治学も関係してくる(p145)」。ま、どこもそんなもんなんです。

第6章 科学には不正、落とし穴、危険がいっぱい では、データの捏造や、研究を利用した研究者自身の金儲けの問題など、科学をめぐるダークな部分を書いています。科学の不正が、NIHとアメリカ実験生物学協会で定義されているようです。
NIHの定義では、
1.研究の企画、遂行、報告におけるねつ造、改ざん、盗用、および科学者社会の常識から大きく逸脱したまやかし、その他の同等行為。
2.合衆国政府の要請で研究に関する資料提出を求められた際、合衆国政府に誤解を与えるような行為。(p152)
(NIH (1988) Responsibilities of PHS awardee and applicant institutions for dealing with and reporting possible misconduct in science. Federal Register 53(181):36347)。
アメリカ実験生物学協会によると、
科学の不正とは、ねつ造、改ざん、盗用のことをさす。しかし、単純ミス、矛盾するデータ、データの解釈や判断のちがい、実験デザインの考え方のちがい、などは科学研究に伴って起こる合法的なことである。これらの事項を科学の不正には含めない。(p153)
(Schachman, H.K. (1990) Testimony, In : "Maintaining the Integrity of Scientific Research" U.S.Government Printing Office, Washington, DC.)
科学における不正の何が問題かというと「不正は科学のいままでの進歩を遅らせなかったとしても、科学のこれからの進歩を確実に危うくすると考えられるのである。(p170)」、と、今後の悪影響を心配されています。最後の章でも、「国民大衆は、科学が自分たちの期待にこたえていないと思えば、「科学者はくだらないことに時間を使い、税金をムダに使っている」、と思うようになるだろう。そうなると、現代科学が今後生き残っていくのは非常に困難になる。p220)」(と述べられており、税金が科学に使われている以上、不正は科学の発展にマイナスという意見が繰り返し述べられています。同感です。

NIHの不正の定義からすれば、合衆国政府相手ではないですが、実験ノートを提出できなかった東大多比良教授は不正をはたらいたってことになっちゃいます。

多比良教授の場合、結果を再現できないということが疑惑のきっかけでしたが、再現性がないことがねつ造に直結するわけではないようです。「研究結果が再現できない理由はたくさんある。たいていは、研究者が見落としていた操作上のミスや考え方の誤りが原因である。(p164)」。著者も、一時期実験結果を再現できなくなったことがあり、その理由が今も全然わからないそうです。「それ以来、私は、自分の観察結果が”絶対正しい”とは思わなくなった。一般に、ねつ造は、少なからず、間違いを隠そうとすることから始まるのである。(p165)」「研究に従事しているすべての人は、自分自身をだますリスク、十分にコントロール実験をできないリスク、研究のすべてが十分に厳密ではないリスク、といつも一緒だということを忘れないことである。(p165)」。再現性が無いと、どこかに間違いがあるってことですね。ねつ造にならないとしても、再現性が確認できることは大切です。

実験ノートについても書かれています。「普通、時間経過とともに起こったことは実験ノートに書く。失敗しようが成功しようが、現在信じていようが信じていまいが、実験ノートはすべての考え、全ての実験操作が書いてあるハズである。一方、論文は、実験ノートに書いたもののほんの一部なのである。(p155)」。実験ノートの書き方については、「各研究室はそれぞれのスタイルをもっている。たとえば、「私の研究室では、実験を始める前に実験ノートに手順を書いてほしい」、と私は強く思っている。実験をしている間に変えたところは、そのつど、変更点をその実験ノートに書き込んでいってもらいたい。」。紙に書いて実験が終わってから実験ノートに書き写していくスタイルもあるようですが、著者はこのスタイルには問題があると考えていらっしゃいます。基礎研究では、「実験ノートの書き方や保管法がバラバラだったり、誰のものか不明瞭だったりする(p174)」らしいのですが、これが応用研究となると儲けがからんできますので、「実験ノートは、特許の主張を証明する公式の法律文書である。したがって、研究内容を完全に書かなくてはならない。実験作業と同時に書いていかなければならない。(中略)さらに、この実験ノートを長期間ちゃんと保管しなければならない。(p174)」と書かれています。お金が絡むと、厳密になるのは科学者の世界に限らず、どこも一緒だと思いました。

お金つながりの話題ですが、アメリカの大学教員は、研究費から自分の給与のほとんどをもらっているらしいのです(p185)。というわけで、「こういう研究者にとって人生で最も重要なことは、自分の職とサラリーをキープすることで、科学の世界で成功することは二の次である。(中略)研究者世界のゲームで生き残るには、生産性が高いこと、つまりどんどん論文を書き続けることなのである。(中略)こういうプレッシャーのもとで、研究者は研究に対してまったく公明正大な態度をとれるだろうか?一言でいえばそれは不可能である。(p185)」と述べられ、研究結果に対して良くない影響がありそうなことが示唆されています。

NIHでは、
職務を利用した金儲け(conflict of interest)の問題点は、個人の金銭的関心によって、研究の遂行および研究結果の発表が変わること。(p184)
(NIH(1989) Request for comment on proposed guidelines for policies on conflict of interest. NIH Guide to Grants and Contracts 18 (32):1-5.)
とされているようです。アメリカらしい話だと思ったのですが、株がからんだ話が出ていました(p186-189)。血栓を溶かす薬の研究が進められており、その研究に参加した研究者が血栓を溶かす薬の会社の株を持っていたことがあったそうです。そのため、研究自体が株価吊り上げのためではないか、株価吊り上げのために研究結果の発表をおこなっているのではないかという疑惑が持たれたそうです(実際に株で儲けたようです)。研究者の株式所有を制限する動きもありましたが、それはすぐに撤回され、現在は情報公開の方向で進んでいるようです。儲けのために発表が変わるなんて、どこかの会社みたいです。

以上、名声・金が科学研究の原動力になり、また、不正の生みの親にもなるという、実社会でもみられることが科学者の周りでも同様にみられるということがわかりました。

最終章で科学と日常常識、科学と倫理、科学と宗教、科学と政治の話題などもとりあげられてます。アメリカの予算額なども検討されていて、なかなか面白い。これからの科学者はこのようなことを気にかけないといけないようです。なにせ、「国民大衆は、科学が自分たちの期待にこたえていないと思えば、「科学者はくだらないことに時間を使い、税金をムダに使っている」、と思うようになるだろう。そうなると、現代科学が今後生き残っていくのは非常に困難になる。(p220)」というわけですから。

訳者あとがきでは、「本書には著者グリンネルが意図しなかった文章もある。意図した文章がなかったりもする。(p225)」とかなり意訳されていることが書かれています。「アメリカの事情も重要なので、それは損なわないように配慮した。(p225)」とあるので、アメリカの事情は正しいと思うのですが・・・・。

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