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zoom RSS 【学校って何だろう 教育の社会学入門 苅谷剛彦著 ちくま文庫】

<<   作成日時 : 2006/02/16 01:27   >>

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毎日中学生新聞に1997年9月から1998年3月にかけて連載されていたものを1998年9月に講談社より単行本化し、さらにそれに一部修正を加えて文庫化したものです。学校についての疑問や問題について、「「正解」探しのかわりに、どんなふうに学校について考えていけばいいのか、どのように問題を立てればいいのか、そういう疑問や発想のしかたを大切にすること、そこから自分なりに学校について考えを深めていくことで、あなたなりの答えにたどり着けるはずです。(p14)」という見解のもと、どうして勉強するのか、校則はなぜあるのか、教科書とは何なのか、先生の仕事、生徒の世界、学校と社会の関わりなどについて、多角的に考えるための本です。中学生に向けて書かれたものですが、どなたでも読んでおいて損は無いと思います。裏をも見透かすような考え方が展開されており、そんな考え方を中学生でも身につけられるよう配慮されています。この本で紹介されたような考え方をする中学生がいたら、その担任の先生は大変苦労するでしょう。著者は東大の教育学の先生です。

まず第1章 どうして勉強するの? では、「なぜ勉強するのか」ということが考えられていきます。著者は読者にも考えてみることを求めていますので、私も考えてみました。私の答えは、「将来必要になるかもしれない知識を得ること。自分がどんなことが得意でどんなことが苦手なのか知り、それによって将来の職業を考えること。」です。

著者はいくつか予想される答えのパターンとその答えの前提となる考え方を解説していきます。まず、「いい成績をとっておかないと、将来いい大学に入れないから今のうちによく勉強しておいたほうがよい(p22)」といった答えがあるだろうし、その答えは「現実の世界では、どんな学校に入れるかによって将来どんな仕事につけるのかが違ってくる。だから、将来の生活のことを考えて勉強しておいたほうがいい」という社会のとらえ方を前提にしている(p22)と述べられます。受験競争や学歴社会を前提にした説明(p22)ということです。私もこういう面もあるだろうなと思いましたが、露骨に表現するのもどうかと思ったのと、大学を出たってフリーターやニートも居ることを考えて、先ほどのような答えを選びました。でも、そういう答えの人の方が多いかもしれないです。

つぎに「いつか役に立つこともあるのだから勉強しておいたほうがよい(p23)」といったタイプの答えが検討されます。私の答えはこれに相当しますね。これには、今すぐにはわからなくても、学校で勉強することは将来何らかの役に立つだろうという考え方(p23)と、上の学校での勉強する内容は下の学校での勉強が基礎となるという勉強する内容にはつながりがあるという考え(p23)が含まれているそうです。ま、そうですね。

3つ目の答えとして、「勉強を通じ、いろいろな知識や考える力をつけることで立派な人になれる(p23-24)」という答えが検討されます。このような答えには「学校での勉強が、たんに仕事をするうえや進学にとって役立つだけでなく、「常識」や「教養」を身につけたり、考える力を養ったりすることで、立派な人間に成長していくことができるという考え(p24)」が含まれていると書かれています。この答えもわからないことは無いですが、勉強ができたって不正をはたらく人間が後を絶ちませんから、学校の勉強と立派な人間の関連は無いと、私は思います。

4つ目は、「生徒は勉強するものだ(p24)」という答え、これには「学校に行っている間は、ともかく勉強するのが当然だ(p24)」という考えだそうです。ま、それはそうなんですが。

このように複数の答え・考え方があることを解説した後に、「こういった疑問には、だれにとっても正解といえる、はっきりした、一つの解答があるわけではない(p25)」という、私は大人になってから納得した事実(というか、こういう事実を受け入れられるようになったときに「俺も大人になったな」と実感したのですが)が述べられます。大人になったらわかることをわざわざ書いたのには、おそらく、「苅谷さん、あなたは自分のやっている学問を、中学生にわかるように書けますか」と毎日中学生新聞の編集長から言われたことがあった(p225)からだと思います。私も純粋な中学生のころは、こんな問題でも一つの正解を求める傾向があったかと思います。そういう問題なんだと中学生にも納得してもらわないと、こういう問題を深く考えることはできないというわけです。「こうした特徴について知っておくことが、「学校って何だろう」を考えていくときのスタートラインになるのです。(p26)」

「おわりに」で書かれていますが、「大人たちは、自分自身の学校時代の経験や新聞・雑誌・テレビの報道をもとに、「今の学校は、ここが問題だ」とか「教育というものは本来○○でなければならない」といった意見を主張しがちです。(中略)人びとが教育について判断を下すときの考え方の中には、この本を通じて疑いの目を向けてきたような、「学校の常識」や「教育の常識」といったものが、根強くはびこっているのではないか、ということです。(中略)ありきたりの教育の見方にとらわれて、学校や教育について、もっと自由でオープンな議論ができなくなっている場合もあるのです。(p222-223)」という考えのもと、多方面から問い、当たり前と思われていることも果たして本当なのか、検討されていきます。

というわけで本文では、当たり前だと思っていることが実は当たり前とは言い難いことが次々挙げられていきます。昔は「「なぜ勉強しなければいけないのか」ではなく、「自分は勉強したいのに、どうして勉強することができないのか」という疑問を感じた中学生が少なからずいた(p28)」、「今の教室の形がけっしてあたりまえではなかった(p43)」、校則について「茶髪は「非行の芽」だと考えられていた。ところが、その規則をゆるめても、行動の面で生徒が「悪く」なったわけではない。外見が将来の行動とすぐに結びつくわけではないことがわかったのです。(p82)」、教科書に関連して「イギリスでは、1988年以前は、学校で教える知識は、それぞれの地域や学校が決めていました。(p112)」、などなど。

特に読んでもらいたいのは、第5章 隠れたカリキュラム です。昔の私は、たった1年以内の生まれの違いなのに、先輩になんであんなに威張られるのか、大変腑に落ちませんでした。先輩の後輩に対する態度の大きさは、同年齢での学年編成により知らず知らず刷り込まれたルールだそうです。他にも、いろいろなことが、学校で知らないうちに刷り込まれて常識以前になっているようです。こういう多角的なというか、裏をも見透かすようなモノの見方・社会の見方は大学で教わるんだろうと思いますが、そんなモノの見方を中学生でもわかるように解説されています。

また、第6章 先生の世界 で、先生に期待しすぎ、要求しすぎという意見が述べられていますが、それは同感です。

あと、ちょっと横道にそれますが、以前、【ほめるな】という新書を取り上げ、その中でほめる教育に対する批判がなされていました。【学校ってなんだろう】でも、アメリカでほめて自信をつけさせる教育が行われていることが述べられており、その影響も書かれています。「アメリカでは、学校での成績に関係なく、多くの子供がいろいろなことに強い自信をもっています。将来の成功についても、成績などあまり関係なく、夢を思い描いているような傾向さえあるのです。たぶん、子どもをほめて自信をつけさせることがアメリカの学校ではいいことだと信じられているからでしょう。むしろ、本当はかないそうもない夢でも、その夢をつぶさないであげようという大人たちの配慮がはたらいているのです。それだけに、社会に出るときに、自分が本当はどれくらいのことができるのか正確にわからないまま、夢だけ追い続けてしまう若者たちがでてきて、いろいろ仕事を変えたり、学校にもどってはまたやめたりといった試行錯誤を繰り返すことも少なくありません。(p205)」。ほめる教育は安定して仕事につかせるためには良くないようです。才能がないのに自信があるというのは、【下流社会】でも触れられていました。

学校に行って勉強することは「当たり前のこと」として普段は考えないことだと思います。そんな「当たり前のこと」が持つ問題点についてこの本で示された実例は、他の「当たり前のこと」を考える上でも参考にできるのではないかと思います。同じ著者の【知的複眼思考法】も、大変面白い本で、お勧めです。

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【欲張りすぎるニッポンの教育 苅谷剛彦+増田ユリヤ著 講談社現代新書】
【学校ってなんだろう】の著者とジャーナリストとの対談です。現在、世間では教育論議が盛んに行われていますが、議論を進める際に忘れてはならない重要な視点が示されていると思いました。また、読んで思ったことの一つは、教育と医療は非常に似た状況にある、ということでした。 ...続きを見る
三余亭
2007/02/06 18:57
【格差社会と教育改革 苅谷剛彦・山口二郎著 岩波ブックレット】
2007年6月25日に北大で行われた苅谷氏の講演をもとに作成されたそうです。講演は、山口氏が研究代表者を務める科研費のプロジェクト「市民社会民主主義の理念と政策に関する総合的考察」の公開行事として行われたものとのこと。ホームページはこちら。 ...続きを見る
三余亭
2008/07/06 00:36

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