三余亭

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zoom RSS 移植臓器の売買は人身売買

<<   作成日時 : 2006/04/25 23:44   >>

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5号館のつぶやきさんのところで、移植臓器の売買はどうしていけないのか、というエントリーがありました。海外で移植を受ける人が増えているというニュースを受けて書かれたようです。臓器売買がいけない理由は人身売買だからです。もっとも、5号館のつぶやきさんはそんなことを本当に疑問に思ったわけではなくて、
臓器移植を医療として認めていながら、臓器提供に相応の謝礼を払うことを認めないという日本国内での対応に問題はないのでしょうか。(中略)
実行することが困難な倫理観あふれる法律を作って、その結果国内の患者さんを救えないというのはやはりどこかが間違っているのではないかと感じます。
ということで日本国内からの提供者にも謝礼を払っても良いのではないかというお考えのようです。

臓器提供に金銭が絡むことは問題ないのでしょうか?私は問題があると思っています。

The Lancet 2003; 361:1645-1648にKeeping an eye on the global traffic in human organsと題したエッセイがありました。このエッセイで問題にされているのは臓器売買です。以下に示すよう、いろいろな国で行われているようです。
In one well travelled route, small groups of Israeli transplant patientscc go by charter plane to Turkey where they are matched with kidney sellers from rural Moldova and Romania and are transplanted by a team of surgeons―one Israeli and one Turkish. Another network unites European and North American patients with Philippine kidney sellers in a private episcopal hospital in Manila, arranged through an independent internet broker who advertises via the web site Liver4You. Brokers in Brooklyn, New York, posing as a non-profit organisation, traffic in Russian immigrants to service foreign patients from Israel who are transplanted in some of the best medical facilities on the east coast of the USA. Wealthy Palestinians travel to Iraq where they can buy a kidney from poor Arabs coming from Jordan. The kidney sellers are housed in a special ward of the hospital that has all the appearances of a kidney motel. A Nigerian doctor/broker facilitates foreign transplants in South Africa or Boston, USA (patient's/buyer's choice), with a ready supply of poor Nigerian kidney sellers, most of them single women. The purchase agreement is notarised by a distinguished law firm in Lagos, Nigeria.

イスラエルからトルコに渡り、モルドバ人、ルーマニア人から腎臓。ヨーロッパと北アメリカからマニラ。イスラエルからアメリカでロシア人の臓器。パレスチナ人がイラクににいってヨルダン人の腎臓。ナイジェリアの独身女性の臓器提供。すごいですね。

このエッセイによると、イランでは腎臓の売買は合法だそうですが、売った側にはいろいろ問題が生じるようです。合法でもです。以下に引用します。
Even with such attempts as in Iran to regulate and control an official system of kidney selling, the outcomes are troubling. One of our Organs Watch researchers has reported directly from Iran that kidney sellers there are recruited from the slums by wealthy kidney activists. They are paid a pittance for their body part. After the sale (which is legal there) the sellers feel profound shame, resentment, and family stigma. In our studies of kidney sellers in India, Turkey, the Philippines, and Eastern Europe, the feelings toward the doctors who removed their kidney can only be described as hostile and, in some cases, even murderous. The disappointment, anger, resentment, and hatred for the surgeons and even for the recipients of their organs―as reported by 100 paid kidney donors in Iran―strongly suggests that kidney selling is a serious social pathology.

恥じ、怒り、家族の汚名。臓器を摘出した医師に対する敵意や殺意。医師や臓器のレシピエントに対する失望、怒り、敵意、憎悪。こんな感情を臓器を売った側は覚えるそうです。
また、引用しませんが、腎臓を取ったことによる健康上の問題が生じるようですし、しかも働けなくなる。そして腎臓を売った金を自分の代わりに働いてもらう人間を雇うために使ってしまうという。何のために腎臓を売ったのかわからなくなってしまいます。

途中省略しますが、以下のように臓器を売買する権利というものの議論が基本的に非倫理的なものであると書いてあります(と思います)。自主的に決めたとは到底いえないものだと書いてあります(と思います)。
Bioethical arguments about the right to buy or sell an organ or other body part are based on Euro-American notions of contract and individual choice. But these create the semblance of ethical choice in an intrinsically unethical context. The choice to sell a kidney in an urban slum of Calcutta or in a Brazilian favela or a Philippine shantytown is often anything but a free and autonomous one. Consent is problematic, with the executioner―whether on death row or at the door of the slum resident―looking over one's shoulder, and when a seller has no other option left but to sell a part of himself. Asking the law to negotiate a fair price for a live human kidney goes against everything that contract theory stands for.

最後の2つのパラグラフです。
In his 1970 classic, The gift relationship, Richard Titmuss anticipated many of the dilemmas now raised by the global human organs market. His assessment of the negative social effects of commercialised blood markets in the USA could also be applied to the global markets in human organs and tissues: “The commercialism of blood and donor relationships represses the expression of altruism, erodes the sense of community, lowers scientific standards, limits both personal and professional freedoms, sanctions the making of profits in hospitals and clinical laboratories, legalises hostility between doctor and patient, subjects critical areas of medicine to the laws of the marketplace, places immense social costs on those least able to bear them―the poor, the sick, and the inept―increases the danger of unethical behaviour in various sectors of medical science and practice, and results in situations in which proportionately more and more blood is supplied by the poor, the unskilled and the unemployed, Blacks and other low income groups”.

The division of the world into organ buyers and organ sellers is a medical, social, and moral tragedy of immense and not yet fully recognised proportions.


社会が絡む英語は苦手なのですが、太字部分の大体の意味としては、「血液とドナーの間の関係に商業主義を持ち込むことは、利他的行為を抑制し、共同体の感覚を破壊し、科学的な標準規格を低め、個人的・職業的自由を制限し、病院・臨床検査所で利益をえることを許可し(sanction)、ドナーと患者の間の敵意を合法化し、医学の重要な分野を市場の法則に服従させ、社会的なコストを貧困層・病人・能力に欠けるものに負わせ、医学・医療での非倫理的な行為の危険を増大させ、結果として多くの血液が貧困層、職業技能の無いもの、雇用されていないもの、黒人、低所得層から供給されることになる。」ということでしょう。

以上のエッセイは脳死移植は問題にしていませんでしたが、基本的に同じ問題が生じると考えています。家族が家族を売るというのは、どんなものでしょう。残された家族は家族として成立しないと思います。

ということで、このエッセイの立場に共感します。移植臓器の提供に金銭で謝礼することには反対です。(但し、交通費や仕事を休んだ日当などの実費が払われることには賛成。ずるいですか。)

話を少し変えます。エッセイで血液が売られていたと書かれていましたが、日本でも売血制度がありました。全文掲載 売血 若き12人の医学生たちはなぜ闘ったのかに詳しくあります。まえがきを読みますと、商業血液銀行と暴力団の関係など、こわくなります。現在の臓器提供ネットワークは商業血液銀行と違って非営利ですので、臓器移植ネットワークと暴力団とが結びつく可能性は無いでしょう。提供された臓器の安全性も問題はないように出来ると思います。しかし、ネットワークに臓器提供者として、自分の意思に反して無理やり紹介されてしまう多重債務者とかが出現しないのでしょうか。日本だって貧困層が臓器売買により悲惨な目にあう可能性は十分あると思います。

貧困層が被害にあうことを防ぐために資産・収入に条件をつければ、いいかもしれません。しかし、その条件に当てはまる方は経済的な問題は無いでしょうから謝礼が臓器提供の動機付けにはならないでしょう。それならば謝礼をしても臓器提供は増えない可能性が高いと思います。却って、証明書をごまかした、金銭が動機の臓器提供が増えてしまうでしょう。

なお、日本では臓器の売買は人身売買罪です。改正された刑法について、松岡とおる参議院議員の国会質問とそれに対する答えがあります

最後に、5号館のつぶやきさんのコメント欄でinoue0さんが触れられた人体由来の医療材料の売買について考えたいと思います。アメリカではこのことをどう考えているか、東京歯科大学市川総合病院 角膜センター長 篠崎尚史先生が説明していました。(というか、このようにアメリカでは考えられていると思うから日本もこれで、という感じのように思います。)

ヒト組織の移植等に関する専門委員会第2回議事録です。
           厚生科学審議会先端医療技術評価部会
       ヒト組織の移植等への利用のあり方に関する専門委員会
                第2回議事録

               平成12年1月14日(金)
               17時00分〜19時10分
               弘済会館「椿の間」

(略)
 篠崎委員
 対価に関しましては私の知る限りでは一部、血液のことは昔からちょっと噂には聞きますが、組織に関しまして対価に関しては全く聞いたことはないですし、私の知る限り、対価を支払っているバンクはないと思うのですが。おそらくないと思います。

 松村委員
 確認ですけれども、そうしたらではプロフィット・オーガニゼーションも無償で提供受けたものをそのものについては今、無償で扱うのだけれども、付加価値については対価を、あるいはプロフィットを要求しているというふうに考えていいですかね。

 篠崎委員
 これは多分、アメリカでは多分、国民全部理解していると思いますが、提供したものに関してはこれはずっと無償ですね。加工に関する費用、あるいはそれをハンドリング、運んだり何だりする経費がかかります。これは加工して別なものを作ると、その分が費用として嵩むのはこれは市場原理ですので致し方ないというのは多分、国民的理解、それは多分、どこでもどこの国でも同じかなという気がするのですが、ものは全く無償というのは原則です。

 松村委員
 言葉としてそれが組織を売買されるというふうに日本では表現されやすいのだけれども、それが違うのだというところを、売買されるのは付加価値の部分だというところをはっきり多分、アメリカの場合にはされていることかと思うのですけれども、そこのところをちょっと。

 篠崎委員
 多分、それが一番のnon-profitとprofitの概念の一番の違いだと思うのですが、日本ですとどうしても非営利と言いますとただのという、無償のというのがありますので、ずっとただといくので中間が、いわゆるバンクが成り立たないのだと思うのですね。
 やはりバンクをやれば運営費かかります。人件費かかりますので、それはある程度、捻出するか、社会の浄財か何かに委ねなければいけませんので、アイバンクの方も日本ではずっと社会の浄財ということで寄付に依存してきた時代があったわけですが、ですからなかなか活動ができないと。それは果たして国民にとって得か損かという問題で、それは我々でなく国民の皆様が判断していただくところなのかなという気がしますけれども。

(以下略)


提供は無料、しかし、運賃・保管料・加工費等々があるので売るということのようです(建て前の匂いがぷんぷんしますが)。提供された臓器を製薬会社が研究に用いて得られた成果で金儲けすることの是非もあると思いますが、今回は問題を指摘して終了とさせてください。

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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
臓器売買について思ったことひど過ぎるからやめたほうがいい




ロナウド
2008/09/25 09:11

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移植臓器の売買は人身売買 三余亭/BIGLOBEウェブリブログ
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