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zoom RSS 【経済学的思考のセンス お金がない人を助けるには 大竹文雄著 中公新書】

<<   作成日時 : 2006/06/12 14:03   >>

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「経済学の本質はインセンティブと因果関係を理解すること(p224)」ということで、「経済学的な考え方を、具体的な話題をもとに、最先端の研究も参照しながら紹介(p224)」した新書。取り上げられている話題は、「女性は何故、背の高い男性を好むのか?」「美男美女は本当に得か?」「プロ野球における戦力均衡」「大学教授を働かせるには?」といった一般人にとって取り組みやすい話題から、「年功賃金と成果主義」「見かけの不平等と真の不平等」など硬い経済学の話題まで扱われています。

硬い話題を扱った第3章、第4章では年金の問題、賃金の問題、失業の問題、所得格差の問題など、数式を使わずに解説されており、経済学に明るくない人間にもわかりやすく説明されていました。大変勉強になりました。

第4章 所得格差と再分配 の最後の部分ですが、
「日本の個人所得税負担は低下してきている。1986年には個人所得税の対GDP比は8.9%だったものが2004年には6.1%に下がったのだ。(中略)それでも増税感を感じるのは、社会保険料が継続的に引き上げられてきたからである。減税は最高税率の引き下げを中心とした累進度の低下を中心に行われ、事実上比例税である年金保険料が引き上げられてきたことで、日本の租税体系は所得再分配機能を弱めてきた。デフレの継続で所得があまり上がらないなかで、社会保険料の引き上げが続くと、低・中所得者は重税感を感じることになる。(p210―211)」
「真の国民負担」は、税金が課せられることで、勤労意欲が低下することから発生する。(中略)税率引き下げによる高所得者の勤労意欲の上昇効果と、社会保険料引き上げによる中・低所得者の勤労意欲低下効果のどちらが大きいであろうか。もし、高額所得者が高額の所得を得ることができる源泉が、運や生まれながらの才能にあるのであれば、税率の変化は彼らの労働意欲に大きな影響を与えないはずだ。所得番付に登場する人たちの所得のかなりの部分は、運・不運や生まれつきの才能によるものではないだろうか。勤労意欲の低下という「真の国民負担」を最小にすることこそが、税制改革・社会保障改革に求められる。(p212―213)」
なるほど。その通りだと思いました。税金は確かに少し安くなったんですが、社会保険料がバカにならないのはここ最近の確定申告で実感していました。低・中所得者の方が数は多いでしょうから、低・中所得者の勤労意欲が低下することは高所得者にとっても損なのかもしれません。

と、経済学らしい分野の解説は大変ためになるのですが、「女性は何故、背の高い男性を好むのか?」「美男美女は本当に得か?」といったところでは、経済学での研究結果を紹介されていますが、硬い経済学の分野と比較すると説得力が弱い印象です。

昔は、男性の3高(高学歴、高収入、高身長)が女性から人気と流行ったことがあります。身長による賃金格差を身長プレミアムといいますが、その分析が紹介されています。「体格のいい男性を好むというのは、生物としての本能的な好みなのかもしれない。(p6-7)」のですが、「ひょっとすると、身長の高さというのも、高収入という経済的な属性と関連があるのではないだろうか。(p7)」ということで、ペルシコ教授の研究結果が紹介されており、「アメリカやイギリスの成人男性で身長が低いほうから25%のグループと、高いほうから25%のグループで賃金を比較すれば、その差は13%以上にもなるという。(p8)」「現在の賃金を決める上で最も重要なのは、現在の身長ではなく、16歳の時点での身長の高さだということである。(p10)」「彼らは、高校におけるスポーツやクラブへの参加状況を説明変数に加えると、身長プレミアムが小さくなることを発見している。つまり、16歳時点で身長が高いと、体育会系のクラブに参加する可能性が高くなり、そうした社会活動によって、リーダーシップや組織を運営していくノウハウを学ぶ機会が高まるのではないだろうか。そのような能力を獲得することが、社会で成功する上で重要なのかもしれない。(p10)」「つまり、自分の子供に残せるもので最も重要なのは、身長であり、青年期に背が高い子供を持つためには、背が高い男性と結婚することが必要なのである。女性はこういうことまで「本能的」にわかった上で、3高男性を選んでいたのだ。(p12)」参考文献を見ますと、次の論文の紹介なのでしょう。Perico, Nicola, Andrew Postlewqite, and Dan Silverman (2004) "The effect of adolescent experience on labor market outcomes : The case of hight.Journal of Political Economy, vol.112, No.5, pp.1019-1053

しかし、日本人では、「日本の身長プレミアムはアメリカやイギリスと同じくらいである。(中略)ただし、親の学歴や育った家庭の生活水準まで考慮すると、日本人男性の身長プレミアムは0.5%まで小さくなる。しかも、統計的にはこの0.5という数字は、本当はゼロかもしれないという可能性を捨てきれないのだ。つまり、日本人男性の身長プレミアムは、子供の頃の人的投資の大きさを反映している部分が大きい。(p8―9)」ということで、3高という言葉が流行った日本では、身長プレミアムは無いに等しく、日本で身長が男性に望む条件として挙げられた理由は、経済的理由とは無関係でしょう。おそらく、異性の容姿に対する好みの問題ではないでしょうか。

「本能的」なことなら生物学からの解説が、いろいろ議論はあるでしょうが、説得力があるかもしれないと思います。ということで、「赤の女王 性とヒトの進化 マット・リドレー著 長谷川真理子訳 翔泳選書」(相当古い本なので手に入りにくいと思いますし、今はもう正しくないことがあるかもしれませんが、もしそうなら御容赦ください)に背の高さが女性からもてる条件であることが書かれていましたので、ご紹介を。「女性がある男性に引かれるのはなぜか?男性美も女性美と同じように、容貌、若さ、スタイルの三位一体で決定される。しかし、相次ぐ研究では、こうした要因は人格や地位ほど重要ではないと、女性は口をそろえて述べている。(中略)唯一の例外は背の高さだろう。女性はどこでも、背の高い男性を魅力的だと思う。(中略)男女のスケッチを見せ、その絵にふさわしいストーリーを書いてみると、男性の背の高さに一切こだわらないと主張した女性たちでさえ、描かれた男性が女性より背が低い場合には、不安げで軟弱な男性のストーリーを書いたのだ。(p385-386)」

背が低いことは軟弱な印象があるようで、それが賃金にも影響しているのではないでしょうか。低身長⇒クラブに参加せず⇒組織運営のノウハウなし⇒出世できず⇒低賃金、というストーリーもあるでしょうが、低身長⇒周囲からの軟弱な印象⇒出世できず⇒低賃金、の方ストーリーもありうるのではないでしょうか。どちらが説得力があるかということですが、後者の方が一般性があるような気が私はします。

注意していただきたいのですが、こういう議論は背の低い個人に対して当てはまるかどうか、というよりも、集団としてそのような傾向があるかどうかということのみだと思いますので、背が低くても軟弱な印象を与えない人が居たり(緑健児なんて、カッコいいですね)、出世している人が居ることと矛盾するものではないのでしょうし、背が低い女性を軟弱だと思わない女性が居ても矛盾するものではないのでしょう。

ま、経済学からの説明も生物学からの説明も、個人を対象にしたものではない議論とはいえ、あまり背が高くない(167cm)私にとっては不愉快なのは確かです。その感情を無視できるならば、生物的な特徴が経済と絡んでくる議論は経済学的理由のみよりは生物学的理由も考慮した方が良いかもしれないと思いました。著者に責任があるわけでは無いのですけれども。但し、生物学が絡んできた場合に注意が必要なのは、「Aのようになっている」から「Aであるべきだ」とは結論できない、ということでしょう。この点は強調したいと思います。

楽しく読ませて頂きました。

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