三余亭

アクセスカウンタ

zoom RSS 【哲学思考トレーニング 伊勢田哲治著 ちくま新書】

<<   作成日時 : 2006/09/18 10:38   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 1 / コメント 0

「疑似科学と科学の哲学」の著者による新書です。序章で、
本書はクリティカルシンキングについてのハウツー本と割り切って読んでいただくこともできるけれども、懐疑主義というもの全般についての哲学書として呼んでいただくことも一応可能である。(p14)
と書かれているとおり、日常の出来事について判断する場合に必要な思考方法の解説とも読めますし、「ほどよい懐疑主義」として文脈主義と呼ばれる考え方のもとでの懐疑主義、あるいは0か1か、ありかなしか、の2分法的な考えではなく「疑似科学と科学の哲学」でも取り上げられた確率的な考え方をふまえての懐疑主義とでも言うべき考え方についての本とも読めると思います。

第1章では、「JAF MATE」に掲載された自動車と飛行機のどちらが死亡する危険が高いかについて書かれた文章が例にだされ、自動車の方が危険であるという主張が果たして正しいかどうか、細かに検討されています。そこで持ち出されるのが、「思いやりの原理(p48)」。デイヴィドソンのprinciple of charityのようです。ただし、文献案内で述べられているように、デイヴィドソンが持ち出したレベルよりも本書で扱うレベルのほうがより日常的。そしてグライスの「協調原理」も持ち出されて(こちらについては不勉強で知りませんでした)、自動車と飛行機のどちらが危険かが検討されていきます。それでも結論は変わりませんが、
クリティカルシンキングの目的はうがったことを言うことではなく、ある主張をしっかりした根拠のもとに受け入れること(p61)
であり、詳細に検討する、クリティカルシンキングを行うことで、しっかりと主張を受け入れることができるようになるわけです。

これは非常に大切なことだと思うわけです。第2章で権威からの議論が紹介されていますが、権威者が言うことが正しいとは限らないわけです。

最近では牛乳は日本人に有害であると言ったらしい内視鏡医が居るらしいのですが、その主張は疫学データに基づいているわけではないようです。しかし、この方の主張を批判することなく受け入れている方も多いようです。もしかすると正しいのかもしれません。しかし、アイディアの段階なのか、検証されてある程度確からしい事実なのか、これは区別しないといけないでしょう。個人的には現在の日本人の疫学データが必要だと思います。現時点では、牛乳の消費を規制するほどのデータは無いと思いますが。

ここで注意が必要なのは、それなら水俣病で有機水銀が原因であると確証できていない時点では規制する必要は無かったのではないか、という反論です。また、牛乳が有害ではないと言うならおまえがデータを出せといわれるかもしれません。これらに対する反論には本書の後半で紹介されている文脈主義による考え方が大変参考になります。少し長くなりますが、大事なところだと思いますので引用を。
誰に立証責任があるのかの判断はいろいろな要素を考慮して総合的に行うことになるが、おおまかな暗黙の合意は存在する。AとBいう二つの立場が対立していた場合、どちらにも決め手がないときでも、全体的に見てAのほうがもっともらしい、ということはあるだろう。これはBに立証責任を帰する理由となる。また、特殊な主張をしている側や、特別な行動を要する主張をしている側に立証責任が生じるというのも、一般的に使われる基準である。
それから、もしその主張が正しければ容易にそれが立証できるはずの側に立証責任を帰するという判断基準もある。四大公害訴訟の場合、特別な主張をしていたのは住民の側だが、企業のほうが必要な情報を握っているためこの基準が使われたということになるだろう。あるいは、AとBのどちらにも決め手がないがAが本当なら重大な事故や危害が生じる、というような場合、Aだという仮定のもとで安全策をとるのがふつうである。逆にいえば、事故や危害が生じるような状況ではない、というBの側が立証責任を負うことになる。(p176―177)
ということで、有機水銀が原因であると確証できていなくても規制は必要であると考えることはできるし、私が牛乳有害説を否定するためのデータを出す必要もないわけです。現在のところ、適切な量であれば、牛乳が体に良いというデータの方が多いと思います。

日常生活でいろいろな主張を検討する際に役に立つ考え方がコンパクトに紹介されていると思います。文脈主義というのは、私、初めて知りましたが、大変もっともな考え方であると思いました。日本語のまとまった文献はないということですが、早くどなたか書いてくれませんでしょうか。

系統樹思考
で触れられていたアブダクションについては書かれていないのですが、これはアブダクションが妥当な推論ではないので、哲学的思考とは相容れないからなのでしょう。しかし、著者の言う確率的な考え方との共通点はあるように思います。うまくまとめられないのですけれど。

アマゾンで送料を無料にするために、値段合わせで買った本ですが、以外に面白かったです。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(1件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
【科学を語るとはどういうことか 科学者、哲学者にモノ申す 須田靖・伊勢田哲治著 河出ブックス】
本屋で見かけて面白そうだと立ち読みしたら一気に引き込まれてしまい、買ってしまいました。 ...続きを見る
三余亭
2013/06/15 00:25

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
【哲学思考トレーニング 伊勢田哲治著 ちくま新書】 三余亭/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる