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zoom RSS フィリピンの臓器売買合法化の動きをどう考えるか

<<   作成日時 : 2007/03/02 23:40   >>

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フィリピンで臓器売買合法化の動きがあるようです。コメントしようかどうか迷っていたのですが、コメントすることにしました。まずは読売新聞から、
腎臓売買、比が公認へ…外国人患者対象

年内導入目指す、闇取引に歯止め

 【マニラ=遠藤富美子】フィリピン政府は、腎臓移植を希望する外国人患者に対し、一定の条件を満たせば腎臓提供を認める新制度を導入する方針を固めた。

 闇で横行する臓器の国際取引を事実上公認するもので、10日に保健省が公聴会を開いて各界の意見をくみ上げた上で、今年中の制度実施を目指す。外国人を対象とする政府公認の臓器売買は世界に類例がなく、実際に制度運用が始まれば移植待機者が1万人を超す日本から患者が殺到することも予想される。

ドナー支援など費用600万円

 新しい生体腎移植制度案は、外国人患者に〈1〉腎臓提供者(ドナー)への生活支援費〈2〉別のフィリピン人患者1人分の移植手術代――を支払わせるのが骨子。ドナー生活支援費などが1万2000ドル(約144万円)、フィリピン人患者の移植代が円換算で96万〜120万円相当とされ、外国人患者の手術・入院代とあわせ、外国人患者は総額5万ドル(約600万円)を支払うことになる。仕組み全体は政府が管理し、ドナーは民間のドナー支援団体「腎臓財団」を通じて生活支援を受ける。

 保健省のジェイド・デルムンド次官は本紙の取材に「新制度導入で闇の売買横行の余地は消え、ドナーは搾取されずに、恩恵を受けられる。臓器売買ではない」と述べ、新制度の狙いが闇取引撲滅と比国民の保護にあることを強調した。

 フィリピンの人身売買禁止法は、臓器売買を禁じているが、昨年は仲介業者1人が同法違反で逮捕されただけ。世界各地の深刻なドナー不足を背景に、闇の腎臓売買が貧困地区ではびこっているのが実態で、犯罪組織介在も指摘される。

 比保健省はまた、「外国人の移植数は移植総数(2005年には630件)の10%」という上限を設けているが、実際には国内患者より高い「外国人価格」目当てに上限に違反する施設も多く、移植総数の3割程度が中東出身者を中心とした外国人と見られる。

 ただ、国による臓器売買の実質公認となる制度については「先進国による搾取」との反対論も根強く、内外の反応次第では見直しを迫られる可能性もある。

(以下略)(科学部 高田真之)
(2007年2月2日 読売新聞)


解説もありましたので、
比が腎臓売買公認へ、「倫理」「安全」懸念の声

 フィリピン政府が移植を前提とした腎臓売買の事実上の公認に向け動き出した。背景には、同国の貧困と絡んだ闇での臓器売買があるが、法律面、倫理面でも課題は多く、日本でも論議を呼びそうだ。(マニラ 遠藤富美子、科学部 高田真之)

スラム街…貧しくて売るしかなかった

 マニラ港近くのバセコ地区は、小さい木造小屋が並ぶ典型的なスラム街だ。

 「貧乏で腎臓提供するしかなかった。泥棒にはなりたくなかった」

 港湾労働者の男(37)は昨年9月にブローカーを介して腎臓を提供した。12万ペソ(約28万円)の報酬を約束されたが、実際に受け取ったのは8万ペソ(約19万円)。「だまされた。(患者を)殺してやりたい」と、男は憤った。手術後は時々傷口が痛み、重い荷物を運べなくなった。

 男が知る限りで、バセコには100人以上の臓器提供者(ドナー)がいる。仲介業者の男(31)は、「病院はドナーが必要になれば、電話のある隣人宅に連絡をよこすんだ」。一回の取引で病院などから受け取るのは円換算で約5万円という。

闇取引が横行

 比政府が腎臓売買の実質公認に踏み出したのは、国内の貧困と闇売買の横行という悲惨な現実が背景にある。闇売買の実態は不明だが、ある医療関係者は「医師でさえ、闇の売買にかかわっている」とし、闇の腎臓売買が比国内での腎臓移植の公式統計(05年には630件)よりもかなり多いことを指摘した。

 新制度は、ドナーが闇取引で腎臓を買いたたかれた上、体を壊すといった悲劇を防ぐのが狙いだ。高額医療費をいとわない先進国の患者が、比国内の移植希望者支援にも同意すれば一石二鳥になる。

 関係者によると、新制度検討は、もともと外国人患者の要請が契機だった。ある観光業者は「中東の複数の国の大使館関係者から、『自国民がフィリピンで移植を希望しているが、手だてはないか』と相談を受けた」と明かした。

(中略)

臓器不足が根底に

 臓器売買は、欧州や中東でも問題となっている。昨年10月に愛媛県でも発覚した。根は同じ臓器不足。フィリピンの売買公認は、貧困層救済の色合いが濃いとはいえ、国情が似た国々で広がる懸念がある。

 先日発表された内閣府の調査によると、脳死下で「臓器提供をしたい」という人は過去最高の41・6%に上ったが、意思表示カードの所持率は2年前より下がった。

 臓器不足を解決する処方せんは、臓器売買以外にないのか、改めて考えなくてはいけない。(高田)
(以下略)
(2007年2月2日 読売新聞)


私は臓器売買には反対の立場です。いろいろ書いた中でも、以前に書いたように、
金銭を介在させることで一時的には臓器提供が増えるかもしれません。しかし貧困が解決されれば(貧困が解決されなければ搾取だと思います)金銭目的の臓器提供は低下する可能性があることから長期的には金銭以外の動機からの臓器提供に頼らなくてはいけないのではないかということ、また、臓器の安全性に利他的な動機からの提供と比較して問題が生じる可能性があること(血液での例からの推測ですが実際に起きたことです)、臓器が足りなかった場合には現在と問題は変わらないこと、などが問題ではないかと考えています。従いまして、黒瀬氏と同じ意見で、臓器売買には賛成できません。
この立場に基本的に変更はありません。

しかし、まぁ、いろいろと考えさせられるところはありました。臓器売買合法化の目的が、臓器提供を増やすということではなく、闇で臓器売買をしている自国民の保護であることは、私が考えてもいないことでした。

今までは、臓器を買ってでも移植したいという患者あるいは患者団体に、結局臓器提供が増えなくて困る人が余計増えるだけだからやめといた方がいいんじゃない、提供臓器の安全性に問題があるかもしれないからやめといた方がいいんじゃない、というスタンスで対応してきました。一方、臓器を売りたいという方には、臓器の安全性に問題あるんじゃないの?というスタンスで対応しておりました。しかしながら、国民の利益を守るためだという政府からの意見は、私は考えておりませんでした。

現実に臓器売買を行った貧者がブローカーに騙されて損をする事例があるとのことですから、臓器売買を認める法律ができることで、提供できるような状態の良い臓器を持った貧者にとってはブローカーに騙される危険は少なくなるでしょう。これは認めざるを得ません。しかし、病気腎移植が原則禁止とされたように、臓器の状態が悪ければ、提供したいと言っても買ってくれるとは限らないわけです。レシピエントの立場では金を払って不良品をつかまされるわけにはいきません。ということは、臓器売買の意思を持つ貧者が全員救われるのではなく、状態の良い臓器を持った貧者だけが救われるということです。ま、それでも現状よりは臓器売買で搾取されている貧者にとっては今より良い状況であるということは認めます。しかし、その場合も、臓器提供に伴うリスクは現状のままで(痛み、腎機能の若干の低下等々)、それらのリスクを減らすための対策はとりようがありません。金銭的な面では現在よりましですが、健康面でのリスクは今のままです。売買というからには商取引であり、労働の一形態なのでしょう。しかし、健康被害対策が立てられないままで国が臓器売買を合法化したとして、それは他の労働でも、臓器売買と同じように労災対策を省くための布石なのだろうか?と勘ぐってしまいます。そうだとすれば、企業は労災対策の費用がかかりませんから、どんどんフィリピンに工場を建てて、国は税金がガッパガッパ手に入るというわけです。大多数の国民を犠牲にして一部が儲ける、一昔前のやり方ですね。

それはともかく、臓器売買を合法化することでなにがおきるのか、考えてみました。闇市場は消えないだろうというのが結論です。

提供される臓器の数が高額の報酬を払える全員に行き渡るほど増えればよいですが、そうでなければ順番待ちが必要です。高額の報酬を払えるとしても順番待ちをしなくてはならなくなったレシピエントが出てきます。金さえ払えばどんな人間でも移植をうけることができる、というわけには多分行かないでしょう。心臓の合併症、血管の合併症、その他もろもろの状況で、腎移植をしても長生きできないからあんたは透析で治療せよと言われるレシピエントも出てくるはずです。病気腎移植でもわかるように、一部の患者は病気腎でも良いと必死ですから、そのようなレシピエントに裏取引を持ちかけてくる闇ブローカーがでてくる可能性があります。レシピエントが彼らに引っかかり、とんでもない腎臓をつかまされる可能性だってあるわけです。闇ブローカーに騙されるドナーだって出てくるでしょう。正規ルートでは腎臓を買ってもらえなかったドナーから腎臓を安く買って、順番待ちで後方に位置するレシピエントに高く売る、実にいい商売です。どちらも後ろめたさは今以上ですから、ばれない可能性も高いかもしれない。結局闇ブローカー無くならないのではないでしょうか。

また、順番待ちの後方のレシピエントがもっと金を出すと言えば、状態の良い腎臓を持った提供者はそちらの方を優先するでしょうから、レシピエントの順番待ちリストは名目だけ、実際は高い報酬を払ったものからの順番です。となると、法律で認められた正式の機関での移植よりも早いことを売り物にするブローカーも出てくるかもしれません。先に待っていても、後からもっと高い金額を提示するレシピエントがいれば、優良な臓器は高額報酬を払うレシピエントの方に提供されますから、法律を守っているレシピエントは結局待たされてしまいます。こうなると、医学的適応うんぬんではありません。金さえ出せば、合併症を考えても移植手術の適応が無いものまで移植を受けてしまい、医療資源の無駄遣いです。「助けられない命に手術して助けられない、助けられる命に手術ができず助けられない」。医療の成果の効率は悲惨です。

また、レシピエントの一部には、高額の報酬は払えないが何とか腎臓を手に入れたいという人はいるでしょう。であれば、臓器売買の意思はあるが、状態の悪い腎臓しかない貧者と、高額の報酬を払えないレシピエントとの間で闇市場が成立するのではないでしょうか。これなら今とあまり変わらない状況が一部で続くのかもしれません。しかし、健康被害はドナーにも(提供できないほどの腎機能なのに提供して腎不全)、レシピエントにも(機能の低下していた腎臓で、結局透析に逆戻り)の両方に出てくる点で、これは行われるべき医療ではありません。

「法律を守れば倫理的」とありましたが、「そもそも法律を守っていない国で何を言っとるか!」と言いたくなります。闇ブローカーが居なくなるか、疑問です。闇市場は残る可能性は高いのではないでしょうか。

現実にどうなるかは、やってみないとわかりません。人の生に対する望みは非常に強いことは、病気腎移植を支持する患者団体があることからもわかります。提供される臓器が、臓器移植を希望される方全員に行き渡るほど十分にあれば問題は生じませんが、不足したなら、順番待ちの不満や適応外とされた不満などいろいろな不満が出てくるでしょう。そこに闇ブローカーが付け込む隙が出てくると思います。

また、フィリピン人で腎臓移植が必要な人は受けられなくなるのではないかという危惧があります。
使命感、生き甲斐、仕事の面白さ、社会的な名誉、社会的な倫理観といった非金銭的なインセンティブによって人々が働いていたときに、不十分な金銭的インセンティブを導入したとたん、非金銭的インセンティブが機能しなくなることもある。(「経済学的思考のセンス お金がない人を助けるには 大竹文雄著 中公新書」 p221)
ということです。フィリピン人で腎移植が必要な方が同じフィリピン人から「腎臓移植が必要なの?じゃ買えば?」といわれるか、或いは、臓器提供の可能性のある人間からも「腎臓売れば金になるの?じゃ外国人に売ろうか?」ということになれば、フィリピンの方に提供される腎臓は減るのではないでしょうか。

今の状況が良いとはいいませんが、臓器売買を合法化しても良い社会になるかどうか、私はそうならない可能性が高い気がします。

私が支持する提供臓器増加の方法は、死後の臓器提供の義務化です。これなら、提供される臓器の数は確実に増えます。レシピエントが付け込まれる隙を見せずに済みます。もっとも、実現されるとしても50年、100年先になるでしょうが。そのために、機会があれば死後の臓器提供の義務化について、いろいろな人の目に付くように記事の一部に言葉を入れておきたいと思います。

参考になるのは、児玉聡氏のこちらの未発表の論文

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内 容 ニックネーム/日時
いつも拝読させていただいております。
トラバできませんので。コメントにて。別に誹謗するつもりはございませんがあのプロレスラーの起用は変だと思う。http://inowe-blog.seesaa.net/article/35446385.html
inowe
2007/03/07 22:14

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