三余亭

アクセスカウンタ

zoom RSS 【子どもの貧困 日本の不公平を考える 阿部彩著 岩波新書】

<<   作成日時 : 2009/01/05 03:15   >>

ナイス ブログ気持玉 1 / トラックバック 0 / コメント 0

格差という言葉以上に貧困という言葉が聞かれるようになりました。昨年の大佛次郎論壇賞に湯浅誠氏の「反貧困 岩波新書」が選ばれたそうです。今回の「子供の貧困」は「反貧困」と同じく、岩波新書から出されています。

貧困については社会が真剣に取り組むべき重要な問題だ、とは思ってはいるものの、ではどの程度生活が困っている人をどうすべきか、という具体的なことは全く見当もつかない状態でした。

本書では、データにより貧困の現状や問題点を示しています。データの説得力を十分に見せつけられました。貧困対策についても具体的なことが理解できました。

読んでいて一番ショックだったのが、2005年のOECDのデータが示された後の文章。
日本は唯一、再分配後所得の貧困率のほうが、再分配前所得の貧困率より高いことがわかる。つまり、社会保障制度や税制度によって、日本の子どもの貧困率は悪化しているのだ!(P96)

どうにもなりませんな。

さて、気を取り直して。

「相対的貧困」という概念が紹介されています。この概念は、OECDなどでも使われている概念だそうで、恥ずかしながら初めて知りました。
相対的貧困とは、人々がある社会の中で生活するためには、その社会の「通常」の生活レベルから一定距離以内の生活レベルが必要であるという考え方に基づく。(p42)
OECDで用いられるのは、手取りの世帯所得(収入から税や社会保障を差し引き、年金やそのほかの社会保障給付を加えた額)を世帯人数で調整し、その中央値の50%ラインを貧困基準とする方法である。(p44)
この「50%」という数値は、絶対的なものではなく、40%や60%を用いる場合もある。(p45)


そのように決めた相対的貧困で国際比較をすると、日本は約15%(2001年15.2%、2004年14.7% p52)で、「アメリカ、イギリス、カナダ、およびイタリアに比べると低いが、スウェーデン、ノルウェー、フィンランドなどの北欧諸国、ドイツ、フランスなど大陸ヨーロッパ諸国、日本以外の唯一のアジア地域の台湾などと比較すると高い水準にある。(p54)」のだそうです。平均すれば30人学級としてそのうち4人程度が貧困状態ということになります。フィンランドは3%台(2004年)とのことなので、これはえらい違いですね。こういうところを見ないで、フィンランドの教育方法を日本で真似しようったってうまくいくはずはないと思います。

日本の場合、「母子世帯の貧困率が突出して高い(66%)(p56)」し「国際的に見ても、日本の母子世帯の貧困率は突出して高く(p57)」「母子世帯で育つ子供の半数以上が貧困状態にある(p57)」とのこと。しかも、「日本の母子世帯の状況は、国際的にみても非常に特異である。その特異性を、一文にまとめるのであれば、「母親の就労率が非常に高いのにもかかわらず、経済状況が厳しく、政府や子どもの父親からの援助も少ない」ということができる。(p109)」著者はデータを出しながら、この一文にまとめられたことを示していきます。このあたりのデータはかなり説得力があります。

それをふまえたうえで、著者の書かれた言葉を読むと強く納得させられます。
実は、このような問題は母子世帯の子どもに限ったことではない。本書でみてきたように、子どもの貧困は、ふたり親世帯であっても、父子世帯であっても発生する。雇用の非正規化や経済状況の悪化は、母親だけではなく、父親にもおこっているのである。筆者は、所得保障や就労支援策に関して言えば、「母子世帯対策」を廃止し、代わりに、その子どもが属する世帯のタイプに関係なく行われる「子ども対策」を立ち上げる必要があると思っている。(p141)

そうですね。父子世帯だってつらいはずですから。

他に、「相対的剥奪」(デプリベーション relative deprivation)(p180)という概念も紹介されています。「人々が社会で通常手にいれることができる栄養、衣服、住居設備、就労、環境面や地理的な条件についての物的な標準に事欠いていたり、一般に経験されているか享受されている雇用、職業、教育、レクリエーション、家族での活動、社会活動や社会関係に参加できない、ないしアクセスできない」状態だそうです。(Townsend P. The International Analysis of Poverty. Harveste Wheatsheaf 1993, 訳は芝田1997)

この概念の良い点は2つあるそうで
一つは、相対的剥奪は、所得や消費から推測される「おおよその生活水準」を測るのではなく、直接生活の質を測る手法である点である。(中略)
二つ目は、相対的剥奪は、社会で期待される生活行動を具体的にリストアップし、その有無を指標化するものであるため、人々の直観に訴える概念である。(p182)


現在は「合意基準アプローチ」とよばれる「「最低限必要なもの」を研究者ではなく、社会全体に選んでもらう手法(p183)」を使って、「社会的に合意された必需品(p184)」を決めているそうです。

さて、その「合意基準アプローチ」を用いて著者が日本では子どもに何が必需品かと考えられているか調査したそうなのですが、その結果、「子どもの必需品に関する人々の支持は筆者が想定したよりもはるかに低かった(p185)」イギリスとの比較ですが、おもちゃ(人形、ぬいぐるみなど)は、イギリス(1999年)では84%の一般市民が必要と答えたそうですが日本では「スポーツ用品やおもちゃ」という項目で12・4%、自転車はイギリス55%で日本20.9%、「新しく足に合った靴」はイギリスで94%、日本の調査では「少なくとも一足のお古でない靴」の項目で40.2%。

この結果を受けて著者は「日本の一般市民は、子どもが最低限にこれだけは享受するべきであるという生活の期待値が低いのである。このような考えが大多数を占める国で、子どもに対する社会支出が先進諸国の中で最低レベルであるのは、当然と言えば当然のことである。(p189)」と書かれています。耳が痛い話です。「私たちは、まず、この貧相な貧困感を改善させることから始めなければならない。(p210)」わかりました。

最後の第7章で、著者は子どもの貧困対策のための11ステップを提唱しています。以下に紹介すると、「すべての政党が子どもの貧困撲滅を政策目標として掲げること」「すべての政策に貧困の観点を盛り込むこと」「児童手当や児童税額控除の額の見直し」「大人に対する所得保障」「税額控除や各種の手当の改革」「教育の必需品への完全なアクセスがあること」「すべての子どもが平等の支援を受けられること」「「より多くの就労」ではなく、「よりよい就労」を」「無料かつ良質の普遍的な保育を提供すること」「不当に重い税金・保険料を軽減すること」「財源を社会全体が担うこと」

細かいところは本書を読んでいただくとして、最初に触れた所得再分配後に貧困率が悪化しているというのは何とかしなくてはいけないと思いました。逆進的な保険料をどうにかする必要があるでしょう。

あとがきで著者はこう書かれています。
「子どもの貧困」に焦点を絞ったのは、貧困対策を提唱する際に常に生じる「自己責任論」との緊張が、子どもの貧困に特化すれば、それほど強く生じないからである。また、「卵が先か、にわとりが先か」ではないが、子どもの貧困に対処し、貧困の連鎖を断ち切ることで、大人の貧困ものちのちには緩和できると考えるからである。(p247)
確かに、自己責任論を小さい子どもに当てはめるのは無理があると思います。親は選べません。

話がずれるのですが、貧困の連鎖については、西原理恵子の「この世でいちばん大事な「カネ」の話 理論社」の第1章や第5章が本当によくって、お勧め。

2歳7カ月の子どもを保育園に預けまがら子育て中ということもありまして、書かれていることを身近に感じながら読むことができました。データの持つ説得力や相対的剥奪などの概念を用いた分析など、社会科学の力を感じました。

子どもの笑顔って可愛いのですけど、その笑顔がどんどん曇っていくとするならそれはつらいことです。子どもは社会の宝って自民党も言ってますし、その通りだと思いますから、有効な対策を出して欲しいものです。多少、家計が苦しくなるのは我慢しようと思います。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 1
ナイス

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
【子どもの貧困 日本の不公平を考える 阿部彩著 岩波新書】 三余亭/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる