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zoom RSS ランダム化試験の論文取り下げは、ただ事ではない

<<   作成日時 : 2009/11/24 07:00   >>

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残念なことですが、不正があったということでLancet誌に掲載された論文が取り下げられました。著者は全員日本人です。PMID 12531578。

長くなりますが、書きます。言いたいことは、

この論文はランダム化試験として掲載されており、世界中の人間がこの試験の結果を信じた。ランダム化試験の結果は新しい治療法を決めるために非常に重要であり、今回の不正は重大なものだ。

まずは事実関係から。読売新聞では、

昭和大病院元医師の論文に疑問、医学誌掲載後削除

世界的に権威のある医学誌に掲載された、昭和大学藤が丘病院(横浜市青葉区)の50歳代の元内科医師による論文が、信ぴょう性が低いとして削除されたことが20日、わかった。

倫理委員会の承認を得ていなかったうえ、生の研究データが確認できないという。

論文は、2003年1月11日付の英医学誌「ランセット」に掲載された。腎臓病の治療に、1種類の薬を使う通常の方法と、2種類の薬を組み合わせる方法で、有効性や安全性を比べた。

掲載後、データの信ぴょう性に疑問の声が上がり、ランセット誌が昨年8月、同病院に調査を依頼。同病院は、医師からの聴き取りや、臨床試験を行った民間病院のカルテなどを調べた。

その結果、症例の生データが見つからず、分析データに不審な点があった。分析や論文執筆は同医師が一人で行い、共著者の教授らにも無断で論文を提出していた。また、論文の記述と違って、臨床試験の当初に民間病院の倫理委員会で承認を受けておらず、患者の同意文書がない例もあった。

調査報告を受けて、ランセット誌は先月、論文の削除を決めた。

医師は01年7月〜03年3月に藤が丘病院に所属していた。同病院は「今後、このようなことのないようにしたい」としている。

(2009年11月21日09時05分  読売新聞)(強調はブログ主)

毎日新聞では、

不正論文疑惑:日本人医師が著者、英医学誌掲載の論文に

英医学誌「ランセット」に掲載された慢性腎臓病の投薬治療に関する日本人著者の論文に不正の疑いが強まり、同誌が10月上旬に論文を取り下げていたことが分かった。

論文は03年1月に掲載。筆頭著者の医師が千葉県君津市の私立病院に勤務当時行った臨床試験から、慢性腎臓疾患の患者に2種類の薬を併用する手法が有効とする内容だった。その後、ドイツの研究チームが同様の試験を行い、併用の患者で腎機能が低下する場合があると同誌に報告。医師が論文投稿時に勤務していた昭和大藤が丘病院(横浜市)=03年に退職=で調査した結果、(1)患者から文書で同意を得ていない(2)統計処理の専門家がチームにいない、などの報告をまとめ、同誌が論文を取り下げた。

医師は取材に対し「患者には治ってほしかったので、併用が有効だと推測される患者をあらかじめ調べて併用群に振り分けた」と話した。【元村有希子】(強調はブログ主)

朝日はネットでは見つけられませんでしたが、11月21日の朝刊第14版(札幌で入手)では、見出しは「論文に虚偽記載 昭和大グループ 「倫理委が承認」」とあり、「論文では、どの薬がいいのかという先入観を持たないようにするため、処方する医師も患者も使った薬の種類がわからないようにする方法をとったと記載している。しかし実際には、医師はどの薬を使ったかを知っていたという。」とありました。

朝日の記事はランダム化比較試験という言葉は出てませんが、内容を専門家が読めば二重盲検(医師も患者も使った薬の種類がわからないようにする方法)だとわかります。毎日は「あらかじめ調べて併用群に振り分けた」とありますから、ランダム化比較試験だとは推測できますが、二重盲検とまでは読めません。読売にはネットで公開されている限りではその手の情報はないようです。

いずれも専門紙ではないし医療面や科学面の記事ではありませんから、あまり細かいことを要求するのは酷で無理なのかもしれませんが、二重盲検のランダム化比較試験の論文に虚偽記載があったということは大きな不正です。このことは大いに強調したい。ちょろっと報道するだけでスルー、っていう問題ではない。

取り下げられた論文を入手しました。Patients and methods(基礎研究ではMaterialsですがLancetはPatientsと書かせる)には、

We did a double-blind, randomised clinical trial at the ○○ Hospital outpatient renal department, (以下略)

思いっきり double-bline(二重盲検)って書いてます。細かいことも書いてます。ここに嘘があるわけですな。

To improve adherence and masking, drug-boxes were prepared specifically for this trial. The box was made of
31 columns, each divided into three cells. Each cell contained the requisite dose of drugs to be taken at each
timepoint per day. The cells were covered with opaque film, which obscured the drugs inside, and were labelled
with a serial number corresponding to the date and time. We instructed patients to break the cover of the relevant
cell corresponding to the present date and time. At each consultation, nurses, without knowledge of the process of
the trial, examined the boxes to confirm adherence and prepared new drug-boxes, identical in appearance, in
accordance with the randomisation code of the patients, with the aid of a pharmacy. To verify the success of
masking, we asked patients and attending nephrologists, every 3 months, which treatment they were taking or
prescribing, respectively. Workers on an independent efficacy and safety panel, who monitored ethical, statistical, and safety issues of our trial, confirmed that the frequency of correct identification was no better than by chance.

ちょっと翻訳する時間がないので・・・。申し訳ないが意訳で。「どの薬が処方されたのかわからなくするために特別な薬箱を使った。有効性や安全性を評価する方々に、どの患者がどの薬を飲んでいるか正確にわかるのかは偶然だと確認された。」という内容です。

実際には、「患者には治ってほしかったので、併用が有効だと推測される患者をあらかじめ調べて併用群に振り分けた」ということですから、試験の前提が崩れています。これは最低。研究者側が予想していない因子による治療効果への影響を系統的誤差(systematic error)から偶然的誤差(random error)にして統計処理するのがランダム化比較試験なのに、そうじゃないってことは、この試験ではそれぞれの治療法に割り付けられた患者さんの背景因子に差があり、それが治療効果に影響した可能性を否定できない、ということです。実際には背景因子に差があったのにそれが無いように割り付けたと嘘を書けば、そりゃ後からいろいろ問題が起きても不思議ではないです。

ある治療Aがかなり副作用があるが効果もあるらしい、ということがわかっていたとします。そんな治療Aの効果を調べるときに、この患者さんは大丈夫だからこっちの治療、この患者さんは副作用でかえって駄目そうだからあっちの治療、とわけていたら、治療効果は治療Aによるものだけでなく、「その患者さんは大丈夫」とした医者の判断の影響もあります。それを発表の時に「ランダム化しました!」とやって医師の判断を抜いてしまえば、それを信じた他の医師が「論文よりも副作用でかえって駄目」ということを経験してしまいます。

ランダム化比較試験の結果によっては、今までの標準治療ががらりと変わります。しかも行うのが非常に大変、時間も人手も金もかかる研究です。何度も同じことを繰り返すわけにはいきません。そこで嘘をつかれたら、実際の医療現場での混乱、研究の迂回など、大きなダメージを与える可能性があります。この論文が発表されたことでどれだけの悪影響があったのか、専門外なものでそこまではわかりませんが、人に迷惑を与える不正として、今回の件は厳しく責められるべきです。

なお、この論文の不正が発覚するきっかけとなったThe COOPERATE trial: a letter of concernから。不正はばれるものです。

A closer look at their table 1 shows a highly unusual balance in the distribution of baseline characteristics across the three treatment groups(table). A χ2 test for independence between randomisation and the respective covariate for categorical variables not known to be aff ected by stratifi cation (sex, renal disease, ACE poly morphism) shows that the balance is much better than one would expect from random fluctuations. For example, the similar ity in the distribution of the ACE polymorphisms between the three groups is closer than one would expect in 988 of 1000 repetitions (p=0・988) and with similar results  for the distribution of renal disease (p=0・972) and sex (p=0・997).
Throughout the paper, all 95% CIs for the hazard ratio are incompatible with the reported analysis technique; they are neither symmetric around the estimate on the log scale (as would be expected for a standard Cox regression analysis) nor on the reported scale. If these data are in fact correct and a non-standard method was used to calculate these CIs and corresponding p values, we would expect this informa tion to be provided in the article.
Further concerns arise from table 3, which reports the eff ect of base line proteinuria on the effi cacy of combination therapy. Nakao and colleagues describe an “overall result of combination therapy”, but fail to report to which comparison this refers. Corrections to this table were reported,3 but although the changes corrected numerical inconsistencies in the data, they created incompatibilities in the reported results. This (corrected) “overall” result (hazard ratio 0・34, 95% CI 0・19?2・68; p=0・31) suggests that the effect of combination therapy is not significant, whereas all other reported comparisons indicate that it is.
A further implausibility arises from the 18-week run-in phase in which the investigators chose the maximum dose of trandolapril (3 mg per day) for the study and detected diff erential reactions to trandolapril (“good” and “low” responders). As a consequence, Nakao and colleagues introduced “reaction to trandolapril” as a stratification variable. However, this is not possible given the way that the trial was described. All 263 patients would have to complete the runin phase before randomisation was launched (which would be more than 2 years after the fi rst patient had been recruited). Or the stratifi cation rule would have had to change during the trial. If either of these situations
occurred, why were they not reported?

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